Kuni

ひとくず 新ディレクターズカットのKuniのレビュー・感想・評価

4.0
公開当時、追いトップガンのように、何度も劇場に足を運ぶ「追いくず」と呼ばれるリピーターが生まれた作品としてTVで紹介され、観たいと思ってた。

幼児虐待をテーマにしたこの作品は、上西監督が脚本・主演もつとめている。


当時は、新人監督の作品は2時間以上だと上映してもらえないと言われカットしていた。
リピーターからの要望で未公開シーンを全て入れた完全版を作ったのが、このディレクターズカットらしい。


自身の幼少期に受けたDV体験を織り交ぜながら、児童相談所の医師に取材をした現状を加え、リアルな作品になっていると思う。


電気とガスが止まったマンションのごみ屋敷で、お腹を空かせた少女マリが何日も置き去りにされている。
そこへ犯罪を繰り返して生きてきた金田が空き巣に入る。

自身も虐待を受けてきた金田(上西監督)は、反社会的な方法でマリを地獄から救おうとする。

…というお話。


画質も演出も金田の言動も荒削りなので、抵抗があって批判する方もいるだろう。


でも乱暴な言動から見え隠れする、金田の不器用な優しさ・ユーモア・寂しさに、私は心を揺さぶられてしまった。


幼児虐待のシーンは、とても目を背けたくなる。
でも、これは現状に起きていることなんだ。


金田も、マリの母親の凛も、親から虐待を受けて育った。
本当の家族の愛を知らない。
どう接していいかもわからないんだ。
虐待は連鎖を生む現実を知った。


焼き肉のシーンでの金田の涙には、もらい泣きした。


普通に家族と楽しく話しながら食卓を囲む。
そんな当たり前の日常が叶わない生い立ちだったのだから…


世間的にはくずの金田。
でもマリを全力で守ろうとする姿に、何度も涙した。


終盤のマリの誕生日のシーン。
不器用ながら、家族みたいに寄り添って生きようとする3人への展開には号泣…


そんなのってないよ…
これからなのに…
叫び続ける金田とマリに、胸が張り裂けそう。。。


でも「誰も知らない」と違って、希望を感じさせるラストに、心が温かくなった。


昭和歌謡のような曲が流れるのも、哀愁漂うアウトローな金田によく似合う。


どんだけ泣いたかわからない。
監督の熱意に動かされる素晴らしい作品だった。
Kuni

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