ベビーパウダー山崎

ザ・キラーのベビーパウダー山崎のレビュー・感想・評価

ザ・キラー(2023年製作の映画)
3.5
殺人鬼の映画とかドラマばっかり撮ってるから、そちら側からも物語(人生)を描きたくなるのはよく分かる。人殺しは知的であって欲しいという、表現者の勝手な願望。あるよね。自分語りと哲学美学、コーマック・マッカーシー小説のような殺し屋。もっと神のような存在にしたいのをグッとこらえてリアルな距離感でキャラクターを造り上げているのは賢い。
徹底した一人称視点。回想なしに前にだけ淡々と進む、普通の作り手ならフラッシュバックの一つや二つ入れたくはなるが、削ぎ落としての120分。間抜けが出てこない、プロの仕事人の映画は好き。なんとなくだが、新作を撮れないザラーの代用品(犯罪映画)として俺は楽しんだ。
一人完結して走り出す、感情が見えにくいファスベンダーのキャラクターは『ドラブル』のマイケル・ケインを思い出したり。殺し屋と殺し屋、ティルダ・スウィントンとの会話は、もう少し捻れた奇妙さ、もしくは己は何者なのかという問いが欲しかった。にしても、すっかり忘れていたケヴィン・ウォーカーにいまだに仕事を振ってあげるフィンチャーは案外情に厚いのかもしれないと思った。