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アンダーカレントのnori8のレビュー・感想・評価

アンダーカレント(2023年製作の映画)
4.1
表層と底流(アンダーカレント)
「人をわかる」とは
どういうことなのか?

その答えを読み解くための
ほぼ全編、会話劇のみの143分。

吐息、瞬き、小さな頷き
戸惑い、沈黙…
その一挙一動のすべてが
静かに、そして強いうねりのように心に押し寄せる。

突然、何も言わず失踪した夫
「悟」(永山瑛太)。
その妻「かなえ」(真木よう子)が
“クセ強”探偵「ヤマサキ」
(リリー・フランキー)と共に
追い求める真実。

突然、「かなえ」の元を訪れ
奇妙な同居生活を始める
ナゾの男「堀」(井浦新)。

「かなえ」「悟」「堀」
3人の心の奥に潜む
きっと誰にも悟られていない
いや、悟られたくない
トラウマと真実。

過去にフタをしたまま
時に平然と明るく今を生きる…
その幸せと表裏一体に
永遠に自分につきまとい
「潔白」を求める心の「正義」。

後半、ついに真実の扉を開けて
独白を始める「悟」と「堀」。

その姿を慈しみながら
「かなえ」が紡いだ
「私だって嘘つくよ」の一言。

やっと心の荷物を下ろし
「解脱」した人間の安堵と贖罪。
でも、胸に手を当てると
きっと誰の心にもある
虚構と偽りの「底流」。

それを目の当たりにした時
自分を、そして大切な誰かを許し
前を向くことができるか?
普遍の問いを突きつけられる。

蛇口からあふれ流れる水、
薪をくべられ煌々と舞い上がる炎、
そして、黙々といただく食事。
刹那に過ぎる日常の1コマが
美しく尊く描かれている。

そして、ラストシーン
それぞれが犬を連れ
少し距離を空けて歩く
「かなえ」と「堀」。
言葉も表情も見せずに終わる
その優しさに胸が詰まった。

今夜、夢の中で
自らの心の奥底に潜む
「アンダーカレント」と
本気で向き合おう。
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