Ryoma

サイド バイ サイド 隣にいる人のRyomaのレビュー・感想・評価

4.2
ファンタジックで少しダークな世界観かつ非常に穏やかで静謐な作品故に、随所にバックに映し出される田舎の一面に広がる田園風景や深緑の木々から漏れ出す木漏れ日、丘から見下ろす茜色の夕陽や夜空に輝く星の数々などの風景描写の美しさが一層際立っており、近年触れた映画の中でも随一の明媚かつ圧巻の美しさだった。小鳥のさえずりや蛙の鳴き声も日常茶飯事と言わんばかりの穏やかな時間が流れる様はみてて心地いいなと心から。
過去の悔恨や今の生き方に静かに対峙する坂口さん演じる主人公の姿が印象的な本作、周りの人との関わりの中で少しずつ変わっていく姿が、これでもかというほどに長い会話の間から発せられる決して多くはない言葉に込められた演者さんの思いや熱量、些細な表情の変化の機微で静かに訴えかけてくる演技故に、非常に胸の深いところに届いた。子役の子や市川実日子さんもとってもチャーミングでいい役柄だったなあ。難しい役柄に感じる齋藤飛鳥さんも元アイドルだと感じさせないほどに秀逸だった。主人公が彼らと過ごす時間、仲睦まじい関係性が窺える様はなんとも微笑ましいし、ついつい笑みが溢れてしまうほど。
欲望とは無縁にも見える主人公の未山はどこか達観し自分の人生を諦めているようにも見え自分と僅かながら重なるところを感じより引き込まれた。
藤井風さんやiri、SIRUPなどを手掛けるyaffleが担当した本作の音楽、同じ人が創ったとは思えないシーンごとの多彩な音楽が素晴らしく、不穏な雰囲気もドラマチックで優しい空気感もうまく表現されていた気がする。企画・プロデュースに行定勲さんも加わっていて非常に単調なプロットに収まりきらない奥行きがある作品に感じた。『世界の中心で、愛をさけぶ』の伊藤ちひろさん・行定勲さんコンビまさに再びだった。登場人物の心情が体現されていた主題歌、クボタカイさんの“隣“もよかった。
全体的にカメラワークがスタイリッシュでオシャレだったなあ。劇中の人物が召している衣装にもこだわりが感じられた。人物ごとに色味に統一感かつ色彩豊かさが感じられインテリア含めセンスの良さが際立っていた。ストーリー展開的には、場面場面や状況を言葉で直接説明したり表したり語ったり場面は比較的多くないような気がしたけれども、それ故に、受け手によって様々な受け取り方・感じ方があったり深い余韻を残してくれたりする作品に感じた。完全に消化・噛み砕けていなかったり、謎や伏線に気付けなかったりした箇所もあったため、いつか改めて観てみたい。
大きな展開もどちらかというと少なく会話も少なめで好みが非常に分かれやすい作品に感じたけれども個人的には好みだった。
邦画ではあまり観ない類いの展開を急がない余白がある映画いいなと。こういう稀有な作品が沢山出てきてほしいな。
Ryoma

Ryoma