リーアム兄さん

コット、はじまりの夏のリーアム兄さんのレビュー・感想・評価

コット、はじまりの夏(2022年製作の映画)
4.4
父親からの圧力によって抑圧されたネグレクト家庭で育つコット。
姉妹の中でも自己表現もできない内気な性格。
そんなコットが母方の親戚に預けられ一夏を過ごす物語。
そんな優しい親戚夫婦に隠された過去を街の噂で聞くコット。
息子を亡くした過去があり、愛したくても愛せなかったもどかしさをコットとの接し方に投影していたんだと察する。抑圧された母、抑圧する父。こんな夫婦の関係性が当たり前だと思っていたコットが、違った世界を知り成長する。勝手にいなくなって叔父に叱られしゅんとするコット、ちょっと言いすぎたなと叔父さんはそっとビスケットを机の上に置いての無言の贈与。ぐっときた人は多いと思う。

鬼滅の刃など最近のアニメは感情や状態をやたらとセリフに落とし込む作品が溢れた現代。ソーシャルメディアで友人の話題に合わせるために、倍速再生でビンジウォッチングする世代が増え、見やすいように設計されたで映像デザインだが、「コット始まりの夏」は完全に1倍速の各シーンの余白で視聴者の感情をぐっと掴む懐かしい作品。

走り出したコットを追いかける父親、そんなことはおかまいなく感情をあらわにし、帰る親戚夫婦にしがみつくコット。このコントラストに涙しない人がいるのだろうか。アカデミー賞作品賞受賞したコーダ愛のうたのような難聴の父親と音楽学校に旅立つ娘の抱擁を彷彿とさせる。家庭内で感情を表にあらわにしなかったコットが父抑圧する父親に反旗を翻してでも別れの悲しさと一緒に過ごせた嬉しさを表現するこのシーンはたまらない。

完璧すぎる映像構成の心浄化映画、昨年公開作品でいうと「いつかの君にもわかること」枠。2024年ベスト10入り確定映画、おすすめ。