エジャ丼

落下の解剖学のエジャ丼のレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
4.0
「これは事故か、自殺か、殺人か──。」

ドイツ人のベストセラー作家サンドラは、自宅で学生の取材を受けていた。すると夫のサミュエルが作業をしながら爆音で音楽を流し始め、取材は中断。息子ダニエルは愛犬スヌープと散歩へ出掛ける。彼が帰ってくると、そこには血を流し倒れるサミュエルの姿が。既に息を引き取っており、容疑は妻のサンドラにかけられる。

親密に繋がっていた家族の輪がある瞬間から突如乱れ、じわじわとねじれていき、思わぬ形で途切れてしまった。その輪を緩めたのは誰?引っ張ったのは?捻ったのは?血の繋がった家族とは言えど、意思を持った人間同士の関係性。真実とは、嘘とは、憶測とは、証拠とは、記憶とは、根拠とは、一体何か。一番近いと思っていたはずの家族の、知らなかった、知る由もなかった、知りたくなかった“コト”に触れるうちに、信頼という言葉の意味と、その言葉が持つ信頼性が揺らぐ。

死人に口なし、全てが人の言葉によって綴られる展開に、終始はっきりしない気持ちの悪さを覚え続けた。時には言葉と映像を巧みに使いこなし、主観と客観の入り混じったカオスを演出し、観客にも“信じる”ことを強制させる。

世の風潮として決められたような家族の定義やあり方は、骨組みだけの家屋のようで、それに納得せずに適応しようとしたとしても、何か衝撃を加えれば一瞬にして崩れ得る脆いものになる。人は結局、常に自分を正当化しながら生きている。それを100%折り合いをつけながら誰かと生きていくなんて、本当にできる?