エジャ丼

アメリカン・フィクションのエジャ丼のレビュー・感想・評価

アメリカン・フィクション(2023年製作の映画)
4.1
「憐れむものたち」

黒人小説家のモンクは、自らの小説を“黒人らしさが足りない”と評され憤りを覚えるが、投げやりで書いたステレオタイプの黒人像を描いた小説が思わぬ形でヒットしてしまい、映画化まで決定する事態に。

アメリカ社会に蔓延する黒人差別“意識”を痛烈に皮肉ったコメディ。“かわいそうな”“虐げられた”といった凝り固まった黒人へのステレオタイプの偏見を持つ白人たちのふざけた振る舞いに、ジェフリー・ライトの演じるモンクが振り回される。白人の意識は硬いが、このモンクの堅物感もなかなかなもので、常に周りの人間を見下しているような性格。それは彼の地頭の良さあってこそだと思う。「俺はこの中で“気づいている”“わかっている”人間だ」というスタンスの演技が、この映画のコメディ要素とすごく合っていて、声を出して笑えるくらい面白い場面がいくつもあった。

黒人の彼らがどんな人間たちなのか。ラッパーで、銃で撃たれて、親子関係は複雑で、、、知っているふりで終わらせることで貼られる身勝手なレッテルを当然のように受け入れる白人たち。虐げることだけが差別ではない。何も知らないくせに、勝手に憐れむことこそ、そういうフィルターを無条件にかけることだって立派な差別なのだ。モンクと彼の周りの人間だって、それぞれがそれぞれの問題を抱えながらも、必死に自分の人生を生きようとしている。それも、苦しいことはあるかもしれないけど、美しいとも言える人生を。

フィクションであり、ノンフィクションでもある、メタにメタを重ねた構造を展開しながら、無知から始まる憐れな無意識をあまりに痛烈に描く、『アメリカの“虚構”』。オスカー脚色賞受賞おめでとう!だけど、アメリカの真実がまた浮き彫りになってしまった側面もある、もやもやがしばらく残る式になってしまったのは残念。