エジャ丼

ボーはおそれているのエジャ丼のレビュー・感想・評価

ボーはおそれている(2023年製作の映画)
3.9
「ママ、きがへんになりそうです。」

常日頃から不安を抱え、メンタルクリニックに通う中年男のボーのもとに、彼の愛する母親の怪死の知らせが届く。母の葬儀のため、帰省を試みるボーだったが、彼の(思い返したくない)半生を掘り起こす壮大な旅となる。

精神の安定に問題を抱えるボーと、その母の関係が、実家への帰省の長旅を通して徐々に紐解かれていく。歳を重ねても未成熟な息子であるボーの姿は滑稽で、全ての責任を放棄する愚か者。そんな彼にも愛情を捧げてきた母モナの彼に対する視線は、思わぬ形でボーに降り注ぐ。依存先への予想外の帰還と、ベールを脱ぎ始めるトラウマが、全編通して形容し難い不安として襲い続ける。さすがアリ・アスター。

ボーが感じる不安を我々観客にも味合わせる、不快感を伝達させる手腕が見事すぎる。全てが“終える”ことなく次の展開へ移行するのも、歯切れの悪い不快感だし、作中の“あること”へのメタファーでもある気がする。何が起こるか、何をしでかすか分からない不安感はもはや、物語への好奇心となり作品に没入できるのがアリアスターの作品ならでは。179分とは思えないほどあっという間で、相変わらずいい意味で狂っていて、とても刺激になった。