針

パスト ライブス/再会の針のレビュー・感想・評価

パスト ライブス/再会(2023年製作の映画)
3.5
ご多分に漏れず、自分もアカデミー賞の候補リストで題名を知っての鑑賞。
韓国での小学生時代に初恋をはぐくんだふたりが、長い年月を経てネット経由で再びつながりを取り戻し……というお話。

二十年以上に渡るふたりの微妙な軌跡を映していく映像がとても美しい。ソウルやニューヨークの街並み、街角の飲み屋や深夜のバー、ロープウェイからメリーゴーラウンドに至るまで、どこを取っても情感たっぷり。これらの強烈すぎないちょっといい絵の連続がこの物語を下支えしてる感じはあって、絵によって保たせてるところはわりとある作品かなーと。

内容的には、前半は正直あんまりにもあんまりすぎるメロドラマ……と思って観てたのですが、このお話は後半がまぁ本題だと思う。長い年月を経たふたりの奇妙な関係をじっくりたっぷり描いていて、そこはちょっとよかったりしました。
しかしそれが自分に強く響いたかというとそこまででもなかったなーというのが正直なところです。

考えてみるとこれって冒頭の初恋から数十年越しの再会、その結末に至るまで、徹底して「もしかしたらあり得たかもしれない男女の関係性の夢」の物語をやっている映画なのかなと。
ラストはまぁこの流れならそれしかありえないでしょうという結論に落ち着くわけで、ゆえに意外性はないのですが、じゃあそれが現実世界との間でバランスを取った終わり方かというとむしろそれも含めて一幅の甘美な夢という気もします。つまりラストで主人公たちの夢はいったん終わってるんだけど、それが私たちの現実を浸食してこないおかげで逆にいつまでも甘い味が残るのかなーと。なので現代的で抵抗感のないメロドラマとしては非常によくできてると思ったのですが、自分個人はどちらかというと取り返しのつかない展開によって観てるこちらの現実感覚まで破壊してほしいみたいなことを願ったりする人間なので(笑)、お客と作品の関係としては若干ミスマッチな部分はあったかも😂。

個人的にはアーサーという第三の人物を演じている方が、この役回りのこのキャラクターにめちゃくちゃぴったりの雰囲気を醸し出していてとてもよかったです。彼がこういう感じの人物じゃないとこの柔らかい夢は成立しないしね……。

たとえば移民やアイデンティティの変容みたいなテーマを抜き出すことであれこれ考えられなくもなさそうでしたが、自分の感想はだいたい上に書いた感じかなー。

それとカメラワーク。徹底してるわけじゃないけど、序盤は坂の多い市街地を背景にした上下移動、中盤はパソコン画面を介した主人公ふたりの切り返し(って言うのかな)、後半から終盤は左右方向の視点移動が多用されてる印象でした。それがうっすら物語内容にもリンクしてるような。
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