針

ホドロフスキーのDUNEの針のレビュー・感想・評価

ホドロフスキーのDUNE(2013年製作の映画)
4.1
すばらしく面白いドキュメンタリーでした。

2024年3月現在、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督による『DUNE PART 2』が公開中ですが、フランク・ハーバートの原作を初めて大々的に映画化しようとしたのは実はアレハンドロ・ホドロフスキーでした(たぶん)。彼の巨大な構想は製作直前まで行きつつも頓挫、代わりにデヴィッド・リンチによる映画が1984年に公開されますがこれは惨敗😂。今回のヴィルヌーヴ版が念願の完全映画化ということらしいです。本作はこのホドロフスキー版『DUNE』という幻の映画についてのドキュメンタリー。

自分的にはこの作品の良さはおおまかに3つに分けられるかなーと。

①ホドロフスキーという”主人公”の魅力と情熱
本作は監督になるはずだったホドロフスキーの語りを中心に構成されていますが、彼の映画観と、その実現のために傾ける情熱が画面からほとばしっていてすばらしい。スタッフを集めるに際して「技術よりもその芸術性を重視する」と言ってるところが象徴的で、彼は映像作家である前に芸術家なんですねー。なので世間一般の映画像みたいなものに安易に迎合せず、自分が作るべきだと感じた「芸術作品」の実現のためにはあらゆる努力を惜しまない。んでもってその姿にはまぁ嘘がなさそうで、なんか原初のクリエイター像みたいなものにちょっと触れた気がして少し心が洗われました。
これはホドロフスキーという人がもともと演劇などの別ジャンルに携わっていて、映画のために映画を撮りたいという出発点ではなく、自己表現のために映画という媒体を選んだ、というキャリアの影響も大きいのかなーと。
あとはこれが最大のキモかもしれませんが、肝心の映画そのものが完成していないがゆえに、それについて作り手の語る言葉が濁りなく輝いて見えるってのはありそうですね。逆に言うと何でも言えるということにもなるけど……。

②語られるエピソード群のおもしろさ
ホドロフスキーは自身の大作映画のためにあらゆるジャンルのプロたちにバシバシ声をかけてくんだけど、これがあまりにもビッグネームな人が多すぎてさすがにビビる。せっかくなので名前はあんまり上げませんが、音楽にピンク・フロイドを勧誘しに行ったら会見中に彼らがマックを喰ってたのでホドロフスキーが憤慨したというエピソードがおもしろすぎる。他にも「こんなん現実にあるか!?」と思わされるエピソードが目白押しで、単純に見てて楽しい。と同時にホドロフスキーの人選があまりにドメジャー?すぎて、彼が根っからの芸術家肌なのか、それとも一周まわって超ミーハーなのかがだんだん分からなくもなってくる。でもそんな中でも『エイリアン』以前で映画業界では無名だったH・R・ギーガーをこの世界に呼び込んだりもしていて、結局は彼一流の美的感覚できちんと人選を行っていたのだろうという気がします。

③彼の構想した『DUNE』の内容のぶっ飛び具合
この映画のドキュメンタリーとしての良さは、ホドロフスキーに共感して思う存分喋らせてるところにもあると思うのですが、もうひとつは構想資料にあった絵コンテをアニメーション化して動かすことで、幻の『DUNE』の映像をわずかながら垣間見させてくれるところにもあると思う。
大宇宙の超ロング・テイクで始めたいと言っていた冒頭シーンの再現が特にすごくて、この映画はぜひ完成形で観たかったという気持ちに自分もさせられました。キャラクターの衣装や色彩のデザインはまさにホドロフスキーって感じがします。あとは作中の宗教的な部分を大きくクローズ・アップすることで、展開や世界観を大きく改変しているところもいかにもこの人の『DUNE』だなーという感じ。予定されていたラストのぶっ飛び具合はちょっとすごくて、確かに『2001年~』に勝るとも劣らない怪作SFになりえたかもしれないという妄想を掻き立てられます。

長い時間と労力をかけて完璧な企画書を作ったホドロフスキーはハリウッドにそれを持ち込むけど、保守的なハリウッドではどこでも拒絶され、せっかくの企画は涙を飲んでボツに……😭。非常に残念な結末ではあるし、映画会社に腹立たしさを感じなくもないんだけど、当の監督が「12時間、いや20時間の映画を作る」と言ってるシーンを観ると、映画会社の態度にもまぁ一理はあるよなーとは正直😅
当時は今より前後編みたいに分割して作るのは難しかった気がするけど、せめてヴィルヌーヴ版と同じぐらいの規模で作れてたらなぁとはちょっと思う……。

頓挫した映画の企画がのちに与えた影響を語る終盤ではなかなか複雑な気分にさせられましたが、その後のホドロフスキーの身の振りにはクリエイターというもののしなやかさとしぶとさのようなものを感じてちょっと安心したりもしました。
あと個人的には、ホドロフスキーがリンチ版『DUNE』の出来の悪さを楽しげに語りつつも、リンチ自身のことは擁護してるくだりがちょっと嬉しかったり。どっちも他人の意見を安易に受け入れずに自分の信じた道を行くという点では似たところのある作家な気がしますしね。

……ということでドキュメンタリーとしてはそこまで特殊な形式の作品ではないけど、中身に詰まった熱量にはちょっと感服しました。
エンドロールの背景がいろんな単色のスライドになってるのも多分ホドロフスキーオマージュよね?
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