KnightsofOdessa

Someday we'll tell each other everything(原題)のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

2.5
[ドイツ、おじさんに恋する少女の物語] 50点

2023年ベルリン映画祭コンペ部門選出作品。ダニエラ・クリエンによる同名小説の映画化作品。1990年夏、東ドイツの農村で暮らすマリアは写真家志望の恋人ヨハネスの家に居候していた。母親の勤めていた工場が東西統合によって閉鎖されてしまい、仕事にあぶれた母親は別れた夫の実家に居候していたからだ。そんな中でマリアは学校をサボっては昼間からドストエフスキーを読んで、ヨハネスの実家のブレンデル農場を手伝って過ごしている。ある日、近隣に暮らす独り身の農夫ヘンナーとばったり出くわし、その魅力に呑み込まれていく。西側に亡命していたヨハネスの伯父が帰省するという一連のエピソードで極めて居心地悪そうにしていたこと、一切父親が登場しないことを含めて考えるとミクロ視点では父親的存在の希求、マクロ視点では共同体崩壊後のアイデンティティの彷徨いといったテーマか。ヨハネスは流入する西欧文化に適応し、都会で芸術を学びたいという夢を掲げるが、マリアにはそんな夢もなく、過去をズルズルと引きずっている。そういう意味でも、無骨で年上のヘンナーは魅力的なのだろう。とはいえ、敢えて選択したであろうヘンナーとマリアの強い性愛描写の相対的比重が大きくなりすぎていて、三角関係や歴史的背景が霞んでしまっているようにも見えるのが惜しいところ。それも、民主主義移行への過渡期と絡めた、唐突に始まったまま全てが途中の中間状態という当時の空気感を再現しているのかもしれないが、それにしてはヘンナーを求める気持ちが記号的存在とチンポという両極(中間のなさ)なので笑えてくる。題名"いつか全てを語る日が来る"はこの当時読んでいた『カラマーゾフの兄弟』の一節らしいが、それは流石にずっと心のなかに閉まっとけと思うなど。
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