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ある人形使い一家の肖像のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

ある人形使い一家の肖像(2023年製作の映画)
3.5
[ガレル家子供世代の将来は如何に] 70点

2023年ベルリン映画祭コンペ部門選出作品。俳優になる10年前の1947年、フィリップ・ガレルの父モーリスは人形劇団に入団し活動していた。1950年にはクロード=アンドレ・メッサン、アラン・ルコワンと共に"Compagnie des Trois"を創設し、各地を公演して回った。本作品はそんなモーリスの経験を基にしているようだ。本作品に登場する劇団は家族経営であり、若い三人はフィリップ・ガレルの子供たち(ルイ、エステル、レナ)が演じている他、フィリップ自身ともいえる彼らの父親シモン役はルイの名付け親であり、上述アラン・ルコワンの息子オーレリアンが演じている(ちなみに、アランはフィリップの名付け親らしい)。家族経営の劇団は仲も良く、シモンの母親ガブリエルも含めて5人、人数が足りなくて雇ったルイの親友で画家志望のピーターも含めて6人で地方などを回りながら生計を立てている。人形劇そのものを捉えることはなく、むしろその裏側で、ずっと腕を上げっぱなし、上を見上げっぱなしで公演を続け、人形を動かすために自分も常に移動し続けるというハードな面を強調する。劇団を継承するのはルイだと思われるが、彼自身は俳優になりたいという夢があった。前半30分はそんな光景が広がっているが、監督が描きたかったのはその後だろう。公演中に一家を一座をまとめていたシモンが倒れ、そのまま帰らぬ人となってしまったのだ。祖母も認知症が進行している。そんな中で遺された三人の兄妹はそれぞれの道を選んでいく。ガレル家は芸能一家なので、多くの子供たちが俳優の道を志したが、フィリップもそれ以外の道を提示できなかった心残りがあるのかもしれない。私に遠慮して他のことが出来ないなら、死んだ後に好きなことをしてくれ、というメッセージにも見えた。反面、二度の葬儀を映すことを鑑みるに、伝統が死んでいくことへの嘆きのようでもあり、そう考えると真逆の意味にもなるんだよなあと思うなど。というくらいギリギリの被写体への興味の無さが面白くも薄気味悪くもあり。巨大な遺産を相続してしまった姉妹の悪戦苦闘篇がとても良かった。レナはレナ役なのにエステルはマルタ役なのは最後まで謎だった。
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