Habby中野

ソウルメイトのHabby中野のネタバレレビュー・内容・結末

ソウルメイト(2023年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

人生の嫌なところと美しいところのすべてが、そこにあったように思う。それは不可逆な時間であり、ほんの少しの選択の過ちであり、距離であり、他者に触れる度できる擦り傷であり、一方で無限の想像の広さ、愛、あたたかい目である。
その目に映るものは、見つめ合う二人にしかわからない。でもそのわからなさと、しかし確実に感じる尊さ、それを筆に乗せスケッチした映画に、ここにしかないものを見た。
映画を見る時間の中で、直に感じた自分の心の動き。映画を通してというよりも、その時間の中で常に起きていた心拍のような運動の自覚。高層マンションでの安定的な生活と安らかに眠る子ども─しかしどうやら父親は不在である。その現代的な豊かさと不安さの象徴なような女の姿に、最初僅かに侮蔑的な目を送った。少女時代の彼女の無邪気で奔放な振る舞いはまるで現代のそれとは真反対で、これが本当に彼女なのかと、人間とはこうも変化してしまうのかと悲しくなった。しかし一方で、彼女たちの豊かな、本当の意味で豊かな思い出を見て、その美しさに嫉妬し、そのかけがえのなさに感動した。そして映画の終盤まで、二人の女性へ一定の距離を感じながらも、その間に生まれる溝、軋轢、摩擦を、絶望を含んだ眼差しで見た。これが現実なんだよな、と。
でもそうして見ていたものは、ただ記憶ではなくて、「現実」ではなくて、曖昧な、しかし確かに二人が紡いだ世界だった。二人の人間が、太陽と陰のように相反するような性格の二人が、相反したまま、そこに一つの世界を構築した。背中合わせで、居るのか居ないのか曖昧なまま、存在を補い合う。あなたがいるから私がいる。相手の目を通して自分を見て、自分を通して相手を見る。そうしてその曖昧な世界は、しかし無限で永遠で、絶対的なものになる。見たものが全てではなく、語られたものが全てではない。でもそれを見たこと、語ったことは本当だ。厳しく虚しく喪失感のある世界を生きようとも、確かに本当だと言えるものは、無限で、永遠の輝きを失いやしない。愛は地球を救わないが、曖昧な喪失を超えることができる。人の心は宇宙よりも広い。そんなふうに思った。
Habby中野

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