ChanpuruPoo

夜明けのすべてのChanpuruPooのネタバレレビュー・内容・結末

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

PMS(月経前症候群)を抱える藤沢さん(上白石萌音)とパニック障害を抱える山添さん(松村北斗)は、それぞれ以前勤めていた会社を退職し、今は小さな教材制作会社で働いている。ある日発作を起こした山添さんを助けたことをきっかけに、藤沢さんは彼に一歩踏み込んで歩み寄ろうとしていく。

人と人とが関わることから生まれる希望、などと言葉にすると途端に陳腐になってしまう何かが見終わった後に心に残る映画があるが、本作もそんな一作だ。まず前半、藤沢さんに対して山添さんが心を開いていき、ふたりの間に新しい関係が生まれていく過程が、とてもリアルなタッチで描かれており引き込まれた。そして物語が中盤になるころにはふたりは打ち解けているのだが、印象的なのがそこから後半にかけての展開だ。この題材だと、ふたりの関係が危うくなる、恋愛関係に発展する、PMSやパニック障害の発作がまずいところで起こってしまう、などの事態が物語のフックになるのではと思って見てしまったが、本作はそうしたわかりやすくセンセーショナルな展開には向かわない。むしろ、プラネタリウムの開催に向けて働く日々の"普通の"日常が静かなタッチで描かれ、物語的には凪のようにみえる時間が続く。ここにこそ作品のメッセージがあるように思った。本作は「変化」についての映画でもある。本人が望もうと望むまいと、たまたま同じ会社になったり、転勤が決まったり、自分や家族の健康状態が変わったりと、外部的な要因による人生の変化は誰にでも起こり得る。藤沢さんも母の介護のことを考え、栗田科学を離れる決意をして旅立っていく。何も起こらない普通の日々も、いつか終わる儚なさがある。そして、そんな"普通の"日々の中で誰かが誰かをさりげなく"気にかけている"ことがどれほど大切な意味を持っているのか、というようなことがじんわりと伝わってきた。変わりゆく自分・世界の最たる象徴としての宇宙への言及であると同時に、「暗闇の中で、過去に"撮影された/星から発せられた"光を見る」という意味で、「映画を観ること」と共鳴するプラネタリウムというモチーフも良かったと思う。
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