Maki

夜明けのすべてのMakiのレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
4.4
監督:三宅唱
公開:2024年


🔬ネタバレあります🔭




少しやつれて見えるあの女性は
育児に疲れ果てているかもしれない。
電車の窓を見つめている男性は
家族を亡くしたばかりかもしれない。

和やかに笑っているそのひとは
不治の病に怯えているかもしれない。
また今度ねと見送った家族とは
もう二度と逢えないのかもしれない。



ニ時間、さざ波のように静かなのに、最後まで心をつかまれ続ける映画だ。PMSやパニック障害や家族の自死のことのみならず、ひととひとの関わりを描く。

事件も事故も大病もサプライズも無し。地震もすぐ止むし、遭遇した彼女と衝突もせず、プラネタリウムは無事に開催、主人公同士のお別れもあっさり。

それでも胸にすとんと落ちるのは「嘘臭さ」がないから。自然な演技と台詞が巧みなうえ、16ミリフィルムの温もりで引っ掛かりもなく沁みこんでくる。

だれかの欠落や喪失を埋められなくても支えることはできる。だれかを支えられなくても寄り添い声をかけることはできる。

500年かけて届く光、30年かけてほどく声、それは夜と星の歌。コペルニクスの地動説、公転する地球、好転する事象、自転によって夜が明け、自転車に乗って忘れものを届ける、心がやわらいでゆく。いつもの夕方、どこにでもある街並、これほど胸が熱くなるとは。

栗田科学、素敵な会社。だれが何を抱えても探らず、毎日精いっぱい働いて、ときどきキャッチボールするんだ。コンビニ買い出しするんだ。



藤沢さん(演:上白石萌音)と山添くん(演:松村北斗)。『君の名は。』と『すずめの戸締まり』で声だけ知っていたけど、初めてご本人を観た。お二人どちらも優れていた。

栗田社長(演:光石研)も山添くんの元上司(演:渋川清彦)も、他の方々もみんな好き。

三宅唱監督。『ケイコ 目を澄ませて』もよい映画だった、本作は更によい映画だった。



瀬尾まいこさんの原作『夜明けのすべて』では、藤沢さんが山添くんに『ボヘミアン・ラプソディ』をお勧めしてフレディの歌真似をするエピソードがあるらしい。

私は『ボヘミアン・ラプソディ』のレビューで、パニック障害になった友達のことを書いた。いつもどおり一緒に行った映画館で突然、過呼吸となり。電車に乗れない、会社も退職、私より映画が好きだったのに映画館にも行けなくなった。いつかまた一緒に行きたい、一度だけでも、でもそれを彼女に云うことはできない。
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