Maki

aftersun/アフターサンのMakiのレビュー・感想・評価

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)
4.5
原題:Aftersun
監督:シャーロット・ウェルズ
公開:2023年
1回目:U-NEXT(字幕)
2回目:U-NEXT(字幕)


🥽ネタバレあります📹


もう逢えないひとに。
もう二度と逢えないひとに。



20年前の夏休み、娘ソフィが父カラムとトルコのリゾート地で過ごした最後の日々。11歳のソフィと30歳のカラムを記録した映像に、31歳のソフィ(演:セリア・ロールソン・ホール)の後悔と追慕が交錯してゆく。

ビデオの夏休みは永遠に終わらない。太陽の静寂が海面を照らし、藍色の小波が二人を包む。大好きな父の笑顔、くだらないジョーク、他愛もない会話がずっと繰り返される。

ビデオとトルコ絨毯を譲り受けていることから、カラムはこの世に居ないようだ。哀しい真実は余白に刻まれるのみだが、おそらくこの旅行のすぐあと自ら命を閉じたのだろう。

困窮、骨折、太極拳、護身術、読書、日焼け止め。誰とでも気さくに話せるようでその実、空中分解しそうな己を整えようと必死なカラム。ソフィは不安定なカラムのことを心から愛している。変だけど優しい、ぎこちなくも心地よい、ときどき寂しそう、よくわからない、もっと一緒にいたい。



ソフィは夢のなかのレイヴ、一心不乱に踊るカラムに今までずっと近づけなかったんじゃないか。20年かかって同い年になって、やっとやっとカラムを抱きしめたのに彼は手を振りほどき墜ちてゆく。一緒に居たかっただけなのに、ただそれだけのことが叶わない。

カラムとの想い出は手放せない宝物であり捨てられない呪物。ふたりの絆は永遠だが、その絆ゆえの後悔もまた永遠だから。
響く Under Pressure。
優しすぎてつらくなる。



カラムを演じたポール・メスカルがとても素晴らしい。複雑なキャラクターに実在感を息づかせていて忘れられない。

11歳のソフィを演じたフランキー・コリオ。反抗期直前、背伸びしたい少女の顔が鮮烈、これがデビュー作とは驚き。

そしてシャーロット・ウェルズ監督、彼女も長編デビュー作とは脱帽。



2回目は終始涙目。
私は20代で母の歳を、30代前半で父の歳を追い越したので。
ソフィが31歳で父カラムの歳に追いついたとわかったとき
他人事でないように感じて、ぞわぞわが止まなかった。
Maki

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