せんな

夜明けのすべてのせんなのレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
4.0
好き。
好きな映画です。でもどこが好きかをうまく言葉にできないのがもどかしい…!

何が起こるわけではない。恋愛物語ではないし、友情ともまた違うと思う。自分ではどうしようもない自分を抱えた2人の、どうしようもない中でも生きていく姿を描いた物語。

藤沢さんが、ことあるごとに職場の人たちにお菓子を差し入れする姿に、PMSによって感情が昂ってしまうことへの申し訳なさから差し入れするのが染み付いてしまったのかな、と彼女の今までの境遇が想像できてしんどかった。山添くんへの接し方を見ても、本来は気遣いのできる優しい人なんだろうな

藤沢さんと山添くん。恋愛ではなくても、お互いを支え合う、強い絆で結ばれたパートナーになるような話なのかな、と予想してたのだけど、いざ観てみると、そうではなかった。
あくまでただの同僚。物語を通して仲良くなるけど、お互いのことを特別に大切に思う気持ちが芽生えるとか、お互いの影響を受けて変わっていくとか、そういう話ではない。
ただ他の人より少しだけ多く、お互いのつらさに寄り添おうとして、分かろうとして、できる範囲で助ける。そんな関係性の2人。
自分の問題と向き合ったり、一歩踏み出すための、少しの勇気をくれる人。

まずは2人が、栗田製作という、暖かい会社に出会えてよかった…!そう心から思えるくらい、2人の職場の同僚の皆さんが気遣いのできるあたたかい人たちばかりで素敵でした

山添くんの「男女間でも、苦手な人でも、助けることはできる」という言葉が大事なテーマなのかな
人のことを分かろうとする。助けようと思う。
当たり前ではあるけど、実行するのはすごく難しいことを、少しでも意識できる人になれたら。漠然とだけどそう思いました。

上記のセリフが出てきた、山添くんの家での藤沢さんとのシーン、2人のほどよい距離感を感じて好きです

光に照らされて自転車を走らせる山添くんのカット、すごく希望を感じました。徒歩圏内が世界のすべてだった山添くんが、藤沢さんにもらった自転車に乗って、より遠くに行けるようになった姿。苦しんできた山添くんを見ていたからこそ、嬉しい気持ちがあふれてきました

ラスト、炭酸水のペットボトルを、炭酸が抜ける音がしないようにそっと開ける山添くんの姿に、藤沢さんと過ごした日々の名残を感じて胸があたたかくなりました

いい意味で感情があまり揺さぶられない、それでも心にしっかりと沁み渡って、人に優しくしたいな、という気持ちが芽生える、素敵な映画でした。

せんな

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