くまちゃん

ヴァチカンのエクソシストのくまちゃんのネタバレレビュー・内容・結末

ヴァチカンのエクソシスト(2023年製作の映画)
3.1

このレビューはネタバレを含みます

超自然的ホラー映画の金字塔「エクソシスト」。その偉大さを再認識しつつ、この手のジャンルに新鮮味を求める難しさを痛感させられた。「JAWS」から派生した数多のサメ映画の一つ。今作はそんなB級カルト的ポジションの域をでない。

主人公ガブリエーレ・アモルトは実在のエクソシストだ。イタリアで生まれたアモルトは第二次世界大戦中、パルチザンとしてファシスト相手に戦った。戦後は少年期に夢見た聖職者の道を志す。やがてローマ司教代理より悪魔祓いの修行を命じられ、その才能を開花させていく。以降数万人から悪魔を祓い、苦悩する人々の救済に貢献してきた。悪魔にさえも強すぎると評されるその手腕は明らかに傑出している。

イエス・キリストは神の力を持って悪魔を追い出すことができたという。この記述からカトリック協会は悪魔祓いを真の神、キリストの名においてのみ宗教的儀式であると肯定し、反対に他宗教や民族における悪魔祓いは迷信であると否定している。
厳密なエクソシスムは教会法によって定められ、叙階された司祭が司教の認可を受け、医学的なケアの上で行うことが許される。つまり今作冒頭のアモルトのように独断や情によって実施して良いものではなく、審問に召喚されたのはそのためだ。

アモルトが悪魔祓いを行ってきた依頼者の多くは精神的な疾患に起因する妄想や幻想の類だった。悪魔の憑依であるかどうかを見分けるポイントは人智を超越した力、本人のものではない声と知らない言語、依頼者が知り得ない情報を知っている、神聖なものに対する冒涜といったものが挙げられる。アモルトは悪魔に憑かれたとされる相手に対し、自分の名前を訪ねる。もし本物の悪魔なら知っているはずだからだ。
ヘンリーはアモルトの名前だけでなく過去をも把握していた。さらにはラテン語を話し、科学では説明不能な怪現象を引き起こす。憑依されているのは間違いない。泰然としたアモルトの表情の変化が事の重大さを物語る。悪魔の名はアスモデウス。グリモワールの一つ「ゴエティア」によると72の悪霊を従える王とされる。傲慢で狡猾で卑劣。人間を謀り、尊厳を踏みにじり、心の間隙に土足で上がり込む。ヘンリーは父を失ったトラウマから、アモルトとエスキベルは依頼者や恋人の声に耳を傾けなかった悔恨からアスモデウスに翻弄される。それはやがて異端審問に緊結するヴァチカンの暗部をも炙り出すことになる。

描かれる悪魔祓いの描写や展開は既視感に溢れ、それほどの恐怖や興奮を得ることも、好奇心を掻き立てられることもできない。しかし、ガブリエーレ・アモルトの才気煥発ぶりを見事に体現したラッセル・クロウは評価できるだろう。実際のアモルトはチベット僧のような出で立ちだったが不撓不屈の精神と唯一無二の説得力はラッセル・クロウだからこそ醸し出すことができるのだ。
今作はラジー賞にノミネートされ、批評家からの支持も得られなかった。しかし肯定的に捉えるコアなファンもある程度存在し、批評サイトによってその評価は定まらない。つまり映画ファンによる今作への熱烈な支持はラッセル・クロウが一手に担っていると言っても過言ではないだろう。
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