鹿伏

窓ぎわのトットちゃんの鹿伏のレビュー・感想・評価

窓ぎわのトットちゃん(2023年製作の映画)
4.3

「本当はスパイなんだけど 切符屋さんなのはどう?」

すさまじいクオリティのアニメーション!
トモエ学園はだいたい子どもたちがはしゃいでて、そのどのシーンも個性豊かにいきいきと描かれてる。セリフがないキャラクターも大勢いるはずなのに、画面のどこかでちゃんと動いてるからザッと並んだときになんとなくわかって、それがトモエ学園の「それぞれの子どもの個性を大切にする」を内包していてすごい。それに加えて3回描かれる内面世界はどれもちがうタッチで、そのひとつは原作装画のいわさきちひろタッチで動いておりすごすぎてちょっと引いてた。日本版のスパイダーバースみたいなアニメーション表現だ。説明的な台詞ではなく細部の画面によってこちらに訴えてくるさまはまるで高畑勲みたい

(グレーゾーンにも見える)危なっかしい子どもが画面いっぱいに駆け回る姿は楽しさ愉快なさまの反面、いつ踏み外してしまうかわからない恐ろしさがあって、それも丁寧なのでずっと緊張感があった。泰明ちゃんと木に登るシーンはたいへんよかったけれど、スリリングな見せ方といい、ふたりに悪いことが起こるのではないかという不安が付いてまわってた。まだこの時点ではあまり表立ってないけれど底の方をずっと戦争の暗い色が流れてるからかもしれない。あと車ガンガン走ってるところを狭い視野のまま駆けていかないで…めちゃ心臓に悪い…

トットちゃんが疾走する場面は演出も含めてすべて素晴らしかった。無垢な子ども時代が終わってゆく/終わらざるをえなかったことをセリフや説明的なモノローグなんか使わなくても、あの一連の動きだけでここまで明らかに描けるんだ!の感動。今まで好きなことにまっすぐ脇目も振らずに走っていったトットちゃんがはじめてまわりを見たときに広がっている惨禍の光景よ。あらためて思い返してもいいシーンだ……だからこそ泰明ちゃんの聖性が、一種の属性によって付与されてるのではないかともどうしようもなく思ってしまい、もちろんそう穿って見てしまう時点で私自身のバイアスもあるけれど、うーーん、となってしまう。公式でもある黒柳徹子自身が著しているので批判は的外れではあるが

にぎやかなだけで意味のない、役に立たないの代名詞だったチンドン屋で幕が開いて幕が閉じるさま、本当に美しい。なぜならトットちゃんは、これからやってくる戦後に黒柳徹子として、泰明ちゃんと語った“魔法の箱”によって稀代のエンターテイナーになるわけで
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