藻類デスモデスムス属

キリエのうたの藻類デスモデスムス属のレビュー・感想・評価

キリエのうた(2023年製作の映画)
4.5
かすり傷


タカラの焼酎ハイが最もコスパよく酔えると教えてくれたのも、なるたるという漫画を全巻押しつけてきたのも、学校に行かず作成した二次元動画を見せてくれたのも、たった一晩だった。彼女は毎晩泥酔していた。その晩は私も相当飲んだのだろうが、酔ったというよりかは、彼女の酔いに加わったという感覚が強い。それは彼女の「気分」でもあった。夜になると濃度が高くなる。アパートの一画にいた。飲み過ぎその他を原因として、彼女とおそらくもう会うことはできない。

彼の作品の少なくとも何作品かは“崩れていく世界”を描いているように思う。根岸が「永遠には続かないよ」と、予言ではなく予告をするように、世界は“現に”崩れていく。その世界は、自分のしたこと、あるいは、自分のしていないことのために、代償を支払うことを要求する。歯止めなく、奪っていくだろう。その新地(さらち)に、奪うことができなかった「なにか」がある。前後ではなく同時に、混ざるのではなく束ねられている。美しいやたくましいと言ってしまうと、どうしても違ったものになってしまう。印象を及ぼす前から音は出ていて、「なにか」であることに感動している。大きな嘘に気づき、嘘ではないと信じた。終わってからも、行進はやまない。