凛

PERFECT DAYSの凛のレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.3
舞台挨拶付き上映
役所広司・柄本時生・中野有紗
カンヌ映画祭優秀主演男優賞おめでとうございます。
巨匠ヴィム•ヴェンダース監督と一緒に作品を作れるということの貴重な体験をそれぞれの視点からコメントが聞けた。

1987年。欧州映画には詳しくない私がなぜか「ベルリン天使の詩」は観ていた。
ヴィム・ヴェンダース監督は日本の小津安二郎監督の作品が好きだと知って、とても腑に落ちた。
日常を丁寧に描く静謐さに共通点を感じる。

50歳を超えた平山さん(役所広司)が住む押上の街は今ではスカイツリーがあり、昼も夜も違った美しさを見せる。見上げればそこには空が広がる。

東京の好きなところは、人が多いので他人を干渉しない。それが心地よい。一人でいても平気。

寡黙な平山さんは仕事と行きつけの店と、それなりに他人と関わりながら淡々と暮らしている。
若い同僚(柄本時生)以外は少し年配の人が多い。

平山さんは自分のことを語らないが、カセットで聴く音楽はオールディーズ。部屋にはたくさんの本。
なんとなく平山さんの若い頃を想像してみる。

数年ぶりに姪(中野有紗)が訪ねて来たことで、平山さんの家族についてなんとなく分かってきたことがある。良いことばかりでは無さそうだ。

普通とか平凡とか、その基準は何だろう。
一人一人に歴史があり、同じ人生を過ごしている人はいない。時間は等しく流れているが、どう暮らしているか、幸せなのか不幸せなのかはその人しか分からない。
季節は巡ってくるけれど、その先にいつまで自分がいるのか。
二度と来ない今日を丁寧に暮らしていくことの大切さを感じた。

舞踏家のような浮浪者に田中泯。
このキャスティングはすごい。年齢を重ねて変化する肉体を表現していく田中泯はとても印象的。
平山さんの目を惹きつける不思議な魅力がある。

三浦友和のパートでは涙が止まらなかった。
2人の名優の何気ない交流は、深い哀しみを抱えた気持ちを分かち合う束の間の友情。

日本人なのに、改めて日本の美しさを教えてもらった気がした。
人は永遠ではない。限られたほんの短い時間の中で精一杯生きていく。
それはみんな違っていて良い。

たぶん観る人の年齢によって、感じるものがかなり違うのではないかと思う。
いつかまた歳を取った時に観たら、気付くことも出てきそう。
そして、この作品は押し付けがましくない。
あくまでも自由だ。
凛