凛

風よ あらしよ 劇場版の凛のレビュー・感想・評価

風よ あらしよ 劇場版(2023年製作の映画)
3.6
原作既読。
NHKのドラマ版は見ていなくて、吉高由里子目当てで観た。
舞台挨拶には、演出の柳川強さんと原作者の村山由佳さんが登壇。
柳川強さんはNHKの朝ドラ「花子とアン」で吉高由里子と組んだ経験がある。
この時期、伊藤野枝の作品を作ったことには意義がある。

今から100年前、関東大震災の直後、アナーキスト大杉栄(永山瑛太)と伊藤野枝(吉高由里子)と大杉の甥が甘粕正彦(音尾拓真)らによって惨殺された(甘粕事件)

2時間の映画では描ききれていない部分も補足。
史実なのでネタバレとは違うかな。

福岡の貧しい家庭に生まれた野枝は、養女に出されたり、教育の機会をなかなか与えられなかったりと、不遇の日々を送る。
叔母の夫(大叔父)に熱烈に頼み込んで、東京の学校に進学。学費は大叔父持ち。
学校で辻潤(稲垣吾郎)に出会い、学問を通して恋心も芽生える。

大叔父と親の決めた望まぬ嫁ぎ先から出奔。
辻の元へ。
辻は野枝を匿ったことで学校から放校。
辞めたのでなく辞めさせられた原因は野枝。
子供が2人生まれるが、大杉栄を愛したことで、棄てる。
大杉栄の自由恋愛は、身勝手で資金は神近市子(美涙)が稼いで出していたので、全く自立とは程遠い。
大杉との間にも子供が複数人いた。

平塚らいてう(松下奈緒)と雑誌「青鞜社」に関わるが、裕福で大学も出ていた平塚と野枝のやり方は明らかに違う。
平塚らいてうは戦後は婦人運動に邁進し、神近市子は議員になっている。

野枝が頭が良く、社会問題を深く理解して、行動を起こしたことは事実。
大正時代の男尊女卑世界に意を唱えたのも事実。

しかし、その後には犠牲者の山、叔母、大叔父、嫁ぎ先、働きたくない辻がやっと得た英語教師の仕事。辻の家族。
棄てた辻との子供が過去の野枝のような教育も与えられなかったとしたら、それも最悪。

理想とやりたいこと、恋愛は自由。
動くモチベーションが、悉く好きな男次第というのが、残念。
容易く子供を生まないで欲しかった。
婚家の夫が好きな人だったらそのまま収まったのかも。
やってきたことは高邁だが、拙速で地に足が付いてない感じ。

関東大震災時の帝都の大混乱と、朝鮮人の不当な大虐殺、
情報のない中での、不穏分子を予め始末しようとした甘粕らの勇足。
なぜ、この日だったか。
虐殺が露見した経緯
甘粕事件については、その後の顛末も。

映画は主人公補正で野枝が正義を貫いた立派な人なので、裏読みしてみた。

何事にも時があり、この時代にこの思想は新しい。
ただ、発表するタイミングを間違えた。

この時期の史料はたくさんあるので、気になったら調べてみると良いと思う。
凛