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PERFECT DAYSのHALのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.0
この映画のテーマはささやかな日常にこそ幸せがある。まさにそんな感じのストーリー。ただ、前半1時間くらいは同じ日常が過ぎていくだけなので見ようによってはかなり退屈。なぜなら同じ日常が5回くらい繰り返されるから。しかし、役所広司の熟練の卓越した演技によって見続けることができる、言うなれば今どき稀有な映画。

監督は敬愛する小津映画をイメージして作っているらしい。主人公の平山という苗字も小津映画によく出てくる苗字らしい。マーベル映画に慣れてしまった現代人には前半はたまらなく退屈だろう。ただ、同じ1日でも同じカットは一つもない。後半からやっとハプニングらしいことが起きる。

ラストの顔のアップが5分近く以上続くところはまさに役所の演技の見せどころ。徐々に目に涙がたまり感きわまる演技が素晴らしい。まさにプロ中のプロの名演技。
しかも、この映画、記事によるとほとんどリハ無しのぶっつけで撮ったらしい。なのにこの完成度。監督と俳優がよほど映画というものをわかってないと無理な芸当だろう。

この映画はどっちかというと日本人向きというより、小津映画が大好きな欧米のマニア向きの映画かもしれない。浅草を始めいろんな顔の東京が見れるからだ。
さらに日本のユニークなトイレ事情も見れるから日本ファンにはたまらない映画かもしれない。いや、聖地巡礼として日本人もかなりやってくるのではないだろうか。私も見たくなるくらいだから(笑)

しかし、未だにガラケーやコンパクトフィルムカメラ(オリンパス)を使ってる主役のディテールに驚いた。つまり、言い方を変えれば様々な日本文化のディテールや風景を楽しむ映画とも言える。ヴィム・ヴェンダースって今時珍しい我が道を往くすごい映画作家だ。

鑑賞2回目
2回見て感じたことだがこの映画には監督の東京に対する愛がそこかしこに溢れてる。また、人に対する優しさも感じる。
平山はいつもと同じ1日を過ごしているように見えるがひとつとして同じ1日はない。いつも何かが違う。そして、その違いを楽しんでいる。こんな完成度の高いドキュメンタリーのようなドラマも珍しい。
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