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PERFECT DAYSのパピヨンのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.3
ヴィム・ヴェンダース監督(「パリ、テキサス」「ベルリン·天使の詩」「ミリオンダラー·ホテル」)の切り撮った日本人、日本の風景ですかね。そこには職人気質やプロ意識や倫理観や完全なる自立など、誰しもが欲しているものが詰まっていました。
東京スカイツリー傍の古びたアパートで一人暮らしをしている清掃作業員の平山(役所広司)は、判で押したような毎日を送っています。それは夜明け前から一日が始まり、清掃道具を積み込んだワゴン車に乗り渋谷区内の公衆トイレを巡回し手際よく磨き上げて行くのです。
共に働く若者タカシ(柄本時生)、そのタカシが通い詰めるガールズ·バーのアヤ(アオイヤマダ)、公園でよく目にするホームレス風の老人(田中泯)、平山の妹(麻生祐未)とその娘ニコ(中野有沙)、行きつけのスナックのママ(石川さゆり)とその元夫(三浦友和)等が、平山の現在を周遊しているのです。
移動中のワゴン車内に流れるのは古いカセットテープで聴く古い洋楽。休憩は神社境内のベンチで食べるランチと、そこで見上げる樹々からの木洩れ日をフイルムカメラで撮ること。そして仕事終わりは銭湯の一番風呂と、浅草駅地下街での一杯と、休日は行き付けのスナックのママの歌声に耳を傾けることと、四畳半の部屋で寝る前に読む古本。
姪が家出の末に転がり込んでくることで少しだけ平山の過去が香りますが、彼の過去も現状の理由も私達は少しのヒントを元に想像するだけです。これは平山と言うなぜか人を惹き付ける男の仕事でのワゴン車と、休日での自転車の狭い範囲のロードムービーであり、平山を通して私達自身が人生を巡回し想いを馳せる時間です。
どうも多少なりとも自立している大人には、「必要不可欠」な映画であるようです。少しだけ濱口竜介監督の「ドライブ·マイ·カー」に重なります。
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