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PERFECT DAYSの砂場のレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
5.0
素晴らしい作品だった、と不覚にも思った

外国人監督が日本を撮るとなると、当事者なもんで妙に構えてしまうのですが今作はそんな構えはすぐに無くなり作品に没入していた

ヴェンダース=小津の影響とか当然思うわけですよ、主人公は平山だし。ただ小津っぽさはあまり感じなかった。室内を映るカメラも微妙に揺れておりフィックスではない。そもそも雨をほとんど撮らなかった小津に対し、本作は雨がよく降るのである。なので松竹の小津というよりは何本か大映とか東宝で撮った時の外様の小津を感じたのである。例えば『浮草』、あの激しい雨、激情、、いわゆる小津らしさを自分自身で捨てにいっているような作風。また東宝の『秋刀魚の味』で見せた葬送のカラスなど過剰な象徴の提示。なので本作は小津というより大映や東宝で撮ったような小津を感じさせる点が興味深い。

役所広司の演技は素晴らしいものだった、パティ・スミスやルー・リード、幸田文趣味からはすぐさま知的階級がわかる。今はトイレ掃除人ではあるが、本当は、、、、このような文化資本はミドルクラス以上の階級と結びついている。役所広司の演技はそのような単なる労働者ではない何か?を感じさせるに十分だ。この点の階級感覚は小津っぽいとも言える
役所広司の持つガジェットはカセットテープ、フィルムカメラ、ガラケーというアナログの手触りのするテクノロジーだ。記憶に焼き付ける感覚はデジタル機器にはないものである、まさに焼き付ける感覚、時々悪夢のようなモノクロのシーンが挿入されるが焼き付けられたような印象。反文明でもなく、最新のデジタルでもない中途半端なテクノロジーのガジェットたち。下手すると何かが映り込んでしまう危うさ、、、、

石川さゆりには衝撃を受けた、、役所広司よりもこっちが個人的には主役だ。パティ・スミスやルー・リードについてはヴェンダースの映画としては正直予定調和である。もちろん個人的には好きですよ、というか好きすぎるので驚きはない。しかし石川さゆりには驚かされた、、、、70年代洋楽の予定調和をぶっ壊す破壊力が石川さゆりにはあった。

東京の風景、スカイツリー、ハイテクトイレ、、かろうじて先進国の地位にとどまっている悲しい象徴のようでもある。首都高を外国人監督が撮ったという意味ではタルコフスキーの『惑星ソラリス』以来だろうか、、、当時は未来の都市の象徴だったが今では終わりゆく国の象徴のようでもある。ヴェンダースの眼差しは優しいが

総じて、、、不覚にも泣きそうになった作品だった。なぜ泣きそうになったのか、なぜ不覚にもと思ったのかは自分でもよくわからない
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