緑雨

PERFECT DAYSの緑雨のレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
3.5
何がパーフェクト・デイズなのだろうか。ルーティンで固めた安らかだが単調な日々を送ること、そして密かな○✖️ゲームのやり取りのように日常を乱さない程度のささやかな楽しみが紛れ込んでくることだろうか。しかし、それを完璧な日々と呼ぶことには、皮肉や自嘲のニュアンスが込められている。姪っ子を迎えに来た妹を思わずハグするとき、思いを寄せる女性の元夫と影踏みして無邪気に遊ぶとき、頑なに隠遁者のような生活を守ろうとする男が遺棄してきた感情の昂りが蘇る。ラストの泣き笑いが表現するのはそういうこと。

月並みに解釈してみるとこのようなことになるが、深いようで案外浅いような微妙な印象でもある。はじめの方では話しかけられても返事もしないくらい喋らなかった平山が、次第にどんどん饒舌になっていく。後輩が急に仕事に来なくなって、激昂して電話で会社に要員の補充を要求する件りとか、単に自分のペースを乱されるのを異常に嫌っているだけの人に見えてもしまい、人物造形の演出が制御しきれていないようにも思える。

一方で、彼のルーティン生活は眺めているだけで心地よさを感じるのも確か。4日働いて1日休み、また5日働いて1日休み、休み明けで出勤するところで映画は終わる。しめて12日間(映画観ながら数えてた)。これを眺めているだけで彼の生活の全貌が把握できてしまう。ある種の様式美。ハリー・ディーン・スタントンの『ラッキー』と通ずるものがある。

今の東京の風景といえば、スカイツリー、首都高、川と橋、ということになるのだろうか。最近いろいろな映画や小説で同じように描かれているような気がする。もはや世界の最先端とは言えなくなってしまった都市の、洗練されてはいないが安心感のある在りようを象徴しているのかもしれない。

それにしても石川さゆりはグレートだ。あんなママがいるスナックなら、そりゃ通いたくなるわな。
緑雨

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