マクマーフィ

PERFECT DAYSのマクマーフィのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.6
何かを失った男の魂のさすらい。

ヴィム・ヴェンダースは東京が好きだ。その想いが作品の端々に現れている。スカイツリーを望む古びたアパート、浅草駅の地下飲み屋街、曲がりくねった首都高、不規則に乱立するビル群、モダンな公衆トイレ、隅田川にかかる橋から見る夕日、銭湯の一番風呂、古本屋、それらがすべて愛おしい。

ヴェンダースが描いてきたのは、何かを失った男の魂のさすらい。本作の主人公の平山も同じだ。しかし、彼の作品にはいつも小さな希望がある。

それは、木漏れ日写真や鉢植えの趣味、意外な再会、小料理屋の女将へのほのかな想い....なによりも日々の仕事をシンプルにこなし、静謐の中で生きる平山の日常が心にぐっとくる。

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映画を見続けるのは、数多の作品が自分の心を動かしてくれるからだ。

そこには自らの人生や過去の映画体験などが投影される。自分はなるべくそんな共感性のバイアスを抜きにして作品と向き合うようにしている。

ただ、本作だけはどうもいけない。いまも心がざわざわする。

小津安二郎を知り、作品に触れ始めたのは20歳の頃だった。時を同じくしてニュージャーマンシネマの騎手として注目を浴びたヴェンダースと出会い、そのニヒルなロードムービーに魅了された。

そんなヴェンダースは40年前に「東京画」を撮り、小津安二郎、厚田雄春カメラマン、笠智衆、東京という街を愛し続けた。その想いがPERFECT DAYSには詰まっている。

また、自分は孤独な初老の主人公・平山と共通するところが多い。ルー・リードやヴァン・モリソンはいつも聴いている。かつてパティ・スミスが歌っていたNYのライブハウスCBGBも80年代に訪れたことがある。さらに、平山の生き方に憧れていた自分もいる。

ヴェンダースありかとう、自分はヴェンダース世代だ。