マクマーフィ

ボーはおそれているのマクマーフィのレビュー・感想・評価

ボーはおそれている(2023年製作の映画)
4.0
ど変態の天才アリ•アスターが現代アメリカ社会や家族の呪縛を痛烈に批判しながら自らの妄想をエンターティメントに仕上げた大傑作。

観る者の想像を遥かに超える悪趣味ストーリーとツイスト、各シークエンスの的確な絵作り、バカバカしくえげつないシーンの金のかけ方など、どれをとっても素晴らしいし、爆笑ものだ。

同じジャンルの名作としては、「フェリーニの8 ½」や「未来世紀ブラジル」、「マルコビッチの穴」、「バートンフィンク」、「イレイザーヘッド」をはじめとするデヴィッド•リンチの作品群など、妄想マインドトリップ系である。ギリシャ神話の父殺し(エディプス・コンプレックス)が背景にある「地獄の黙示録」にも近い。

で、どこが現代アメリカの批判なのか?それはボウが住むNYゲットーは、ヘロイン中毒患者が溢れるフィラデルフィアのケンジントン通りが地獄のようなパロディになっているし、富裕層家族の傲慢な暮らしぶり、物質社会からドロップアウトしたモダンヒッピーの定番である森のコミューンの気持ち悪さ(「ファーゴ」最新ドラマシリーズに同じシークエンスあり!)、未来のないZ世代の混乱ぶりなどだ。

とくに毒々しいマザーコンプレックスを軸とする本作は、親子の愛情が宗教にも昇華しているアメリカを辛辣に抉る。その点、同じユダヤ系の劇作家•脚本家のトニー•クシュナーの代表作「エンジェルス•イン•アメリカ」にとても近い。

単純に、家族の忌々しさをテーマにしたブラックコメディとして大いに楽しめる怪作である。それにしても観客の皆さん、もっと笑ってよ。