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PERFECT DAYSのptitsaのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.5
カウリスマキ同様,ヴィム・ヴェンダースという巨匠が戻ってきて,しかも日本を題材とした傑作を撮ってくれたのは,嬉しいですね.

非常にゆったりとした映画ながら,様々なことを考えさせられました.執拗にルーティンを写し続けることで,平凡な日常が続いていく中でも,少しずつ表情の異なる毎日を,豊かに捉えています.
平山という男の人生,タカシやニコなど魅力的なサブキャラクターとの関わり,東京という街の美しさと汚さ等々.ほとんど説明がないながら,独特の間や画角などで,「これはこういう意味だろうか」といちいち考えさせられます.ここまで考えさせられる映画は,往年の名画たちを思い起こさせます.

音楽も良いですね.VelvetsのPale Blue Eyesくらいしか,題名まで知っている曲はなかったですが,ゆったりとした時間の流れの中で,平山の為人に合った選曲で,自然に入り込めました.ニコという名前がVelvetsを暗示しているだろうことは,他の方のコメントで気付かされましたが,盲点でした.幸田文,パトリシア・ハイスミス,フォークナーと,本のチョイスも絶妙でした.

ただ,やはりトイレの清掃員に対して,我々自身が持つ偏見のようなものを可視化されたような気もして,少し居心地の悪い思いもしました.それだけ真に迫って撮ったということなのでしょうが,娯楽を楽しむ我々自身にも,「お前の生活は苦しい生活を強いられている人々の「犠牲」の上に成り立っているに過ぎないのではないか」という重要な問いかけをしているように感じました.三浦友和との邂逅を経た後のラストシーンも,ハッピーエンドというよりは,先の見えない人生に対する一抹の不安も暗示しているように思えてなりませんでした.
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