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千年女優のptitsaのレビュー・感想・評価

千年女優(2001年製作の映画)
5.0
今敏作品では『パプリカ』と『東京ゴッドファーザーズ』を観ていたのですが,個人的にはこの作品はそれらを遥かに凌ぐ素晴らしい作品でした.映画館に足を運んで観た映画の中でも,長らく感じたことのない余韻に浸りました.

現実と虚構を往復する点は,『パプリカ』にも現れる今敏作品の特徴ですが,本作はコミカルに往復し,さらに登場人物たちが現実と虚構の区別に自覚的でない(序盤のカメラマンのみ除く)ので,非常に不思議な感覚を覚えました.
女優の一生,日本人の歴史,インタビューの1日,そして人間の生と,さまざまな時間軸が一斉に次々と語られ,テンポ良く繰り返していくさまは,天才的な脚本だと思います.そうした時の揺らぎの中で,女優が抱き続けていたのは一途でシンプルな想いであること,そしてラストの一言によって,その想い自体は報われなかったものの,その想いを原動力として歩んだ人生を,我がこととして愛すると昇華した構図が,非常に美しく嘆息しました.ここまで引っ張った以上,絵描きを登場させるわけにもいかないだろうし,どう着地させるんだろうかと後半からずっと思っていたのですが,完全に良い意味で裏切られました.
平沢進の劇伴とEDも素晴らしかったです.特に,あのラストからのエンドロールは感涙ものですね.

絵も見事です.千代子さんも詠子さんも,いわゆるアニメチックな可愛さではなく,リアルな艶かしさを追求しており,ふとした表情に見惚れます.戦後の瓦礫の中から,「いつかきっと」という文字と共に,少女期の千代子さんの絵が現れた時には,あまりの美しさに思わず息を呑みました.
また,背景の描写も,リアルなのにどことなく暗くて,映画全体の流れにマッチしています.雪原に辿り着くまでの走り回るシーンや,雪のシーンが印象に残りました.調べると,今敏自身が釧路の出身だそうです.何もない雪原や雪に対して,幼少期からの体験も乗っているのかなと感じました.安部公房を最近読み返しているのですが,彼も満州で育ったために,砂漠の情景がよく小説に現れるそうです.

『パーフェクトブルー』と『妄想代理人』も,近いうちに見てみたいと思いました.
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