ptitsa

羅生門のptitsaのレビュー・感想・評価

羅生門(1950年製作の映画)
4.6
流石の黒澤作品ですね.
海外ではRashomonというとこちらの筋の方が有名のようですが,さもありなんというクオリティの高さです.三船も京マチコも森雅之も,異なる説のもとでは異なる顔を次々に見せており,異なる筋の証言それぞれに映像的な説得力を付け加えています.
ボレロに似た曲に合わせて踊り狂う京マチコの狂乱の演技が特に素晴らしかったです.

最後の法師,下人,杣売りのやり取りは芥川の原作にはなかったはずですが,ヒューマニズムに溢れていて良いですね.赤子の肌着を奪い取ろうとする下人を非難する杣売りが,逆に過去の行いを非難され自失する中で,法師にすら拒絶されてしまう.しかし,そこで自分をも信じることができないと落胆する杣売りの姿に法師はむしろ人間の良心を見出し,赤子を託すことを決めるという流れです.やはり人間が人間らしくいるために必要なのは,時折自分の人間性に対して疑いを持つ心なのではないか,という力強いメッセージですね.
アガサ・クリスティの『春にして君を離れ』が大好きなのですが,そのテーマにも重なりじんと心に沁みました.
ptitsa

ptitsa