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枯れ葉のptitsaのレビュー・感想・評価

枯れ葉(2023年製作の映画)
4.8
どれだけ陳腐なシナリオでも,カウリスマキの撮る映画は観客を無条件に引き込みます.あらすじを文字にすると,これだけベタベタなメロドラマもないというレベルの代物だと思いますが,それでも彼の手にかかれば,ここまで物悲しい物語に仕立て上げることができるのですね.
光の具合でしょうか,各場面の隅々まで影が落とされたような悲哀を感じさせます.トラム(バス?)に乗って揺られるアンサの姿だけでも,なぜか心が締め付けられるような悲しみを感じます.カウリスマキには,初期の北野武の詩情と共通するものを感じるのですが,「あの夏,いちばん静かな海。」でのバスの車内のシーンを思い出しました.シニカルなジョークを随所に入れ込んでくるところも似てますね.
そういえば,登場人物が全然御礼を言わないので終盤まで気づかなかったのですが,最近再販されたカウリスマキのBlu-rayボックスの題名「キートス」という言葉は,「ありがとう」という意味なのですね.

ラジオから流れてくるロシア・ウクライナ戦争のニュースは,入れなくてはならないと感じていたのだと推察します.ロシアに留学していた際に,フィンランド人がルームメイトだったのですが,「ロシアが攻めてくることを想定して,国をあげて準備しているんだ」と言っていて,その時は「この時代にそんなことがあるのか」と思って半信半疑でしたが,僕が間違っていました.フィンランド人がこの戦争に対して向ける思いは,他の国の人々の比にならないでしょう.凝った演出ではないために,逆にしみじみと伝わってきました.

さまざまな音楽が流れてきて,チャイコフスキーの「悲愴」も合うなあと思ってたんですが,劇中で流れた曲の中で,最も良かったのは間違いなくこの曲です.
https://www.youtube.com/watch?v=XgzKpRbvmww
物語的にも,ホラッパの転換のきっかけとなる曲で,重要な曲です.とにかく無表情で演奏しながら場末のパブで,二人が悲しく歌い上げるさま,そしてそれを静かに聴く観衆の顔つきが,なんとも胸に沁みました.昭和のフォークソングを思い出しますね.
彼女らのインタビューを見ると,カウリスマキ映画の出演者さながら,完全な無表情で思わず頬が緩みました.
https://www.youtube.com/watch?v=aBFDZn6JAV8
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