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ポトフ 美食家と料理人の06のレビュー・感想・評価

ポトフ 美食家と料理人(2023年製作の映画)
3.6
美食世界のナポレオンと呼ばれる料理研究家と一流シェフが、男女の関係のあり方について悩みつつも、皇太子に最高のポトフをご馳走するために奮闘する話——では一切ない。

皇太子に御馳走するどころか、なんだったらちゃんとポトフをちゃんと作るシーンにもたどり着かなかったくらいだ。流石フランス映画、タイトル・予告詐欺がすごい。
その代わり、食事への愛と、結婚していない二人の男女の愛が潤沢に語られる2時間だった。

いつの時代かもわからない舞台。彼らの社会との関わりや、周囲との人間関係も不明。ただ隠れ家のような贅沢な一軒家で、特別な料理を提供する。
都会では、素晴らしい料理はお金を出せば食べられる。しかし、この映画で一品一品手間をかけて仕上げられていく料理達は愛に溢れ、そんな資本主義との対極にあった。
口にしたら泣きそうになる料理とは、どんなものなのだろうか。
その答えを知るために高級料理店に行っても、きっとそれは味わえない。愛と技術、どちらも有する豊かな晩餐は一部の人間しか得られない。
料理研究家が、贅を尽くした晩餐会を開いた王室に対して、フランスの郷土料理「ポトフ」で持て成そうとしたように。日本人の僕らにとっての「ポトフ」を探すことが、豊かな食卓への一番の近道だろう。

それと、一見もてなされる男達側が優位に見えるが、一人の女性を女神のように崇めて中心に置くその姿に、フランスらしさを観た。女神が姿を隠しても、新たな手足が見つかれば走っていくその業の深さと、それでも愛を忘れない事が両立するラストを描けるのは、この映画ならでは。

映像は優美の一言。照明が使われてなさそうな撮影は、自然の光の美しさを丁寧に映し出す。明かりがある場所とない場所の明暗差が豊かだ。
料理シーンは華やかで丹念。しかし、他のグルメ映画と比べると少し異質だ。高価な芸術品のような研ぎ澄まされた美ではなく、もっと温かみのある愛のある食べ物として描かれる。陶器で例えると、唐物ではなく、用の美のような。
しかし洋梨のシロップ漬けと、裸体の連想は見事。美しかった。
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