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落下の解剖学のtetsu3のレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
4.0
 Anatomy of a fall
 落下の解剖学

人里離れた雪山の山荘。
転落死した夫・父親。
見つけたのは息子(と、犬)。
家にいたのは妻・母親。
関係者は、ほぼ家族のみ。
そして、重要な証言者である息子は、事故による視覚障害をもつ。
夫婦。母子。父子。
それぞれの関係性、意思、精神状態、これらが、複雑に絡み合う。
さて、真実の行方は…。

裁判においては、科学的・物理的検証は描かれるものの、そこはそれほど重視されない。
(「科捜研の女」であれば、科学的分析で決定的な証拠をマリコが見つけるはず。)

重要なのは、夫婦の諍いを収めた録音と証言。
前者の録音は、切り取られたものであり、前後の状況で見えるものは大きく変わる。
後者の証言は、すべてが主観的なもの。
これまた、曖昧だ。

 Anatomy of a fall
 落下の解剖学

「解剖学」とは人体の構造を含めた生物の有りさまを、“どのような「形」をしているのか”という側面から研究する学問という。
構造は、外部も内部も含み、目で見えるもの見えないものも含む。

そう。この作品の大半を占める裁判やその結果は、ある意味どうでもいい。真実については語られない。
この作品が語るものは、「落下」に至るまでの、家族の複雑な関係性を「解剖」し、その「構造」をあからさまにすることだ。
その「メス」が、裁判であるだけ。

だから、決して、サスペンスや謎解きなんかじゃない。むしろドキュメンタリーに近いかもしれなない。
この家族のやり取り、喧騒は、僕らにも普通にあることが怖い。
録音の喧嘩を聴いて、その噛み合わなさにドキッとした人は多いはず(僕も。)。 
どちらも正しいと思ったことを話し、自分を正当化し、その感覚の少しのズレが、大きく感情を動かす。
そして、その噛み合わなさが、変な方向に向かったら…、と思うとゾッとする。
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