あっという間の169分。
映画を観ているその169分よりずっと、長い時間、この映画のことを観終わった後に考えている。そして、その時間も決して長くは感じない。
行方不明の俳優を探す、元映画監督。
物語は疑惑の男を見つけたあたりから急展開していく。
しかし、終始、場面は丁寧に描かれ、そのためか流れはゆったりと進むことで正直眠気を誘う。
ひとつひとつのシーンはとても優しい。心地よい無駄という感じだろうか。
二人の男が白い壁を塗り直すシーンがとても好きだ。
この作品を、ミステリーと分類するのは違う気がする。
確かに、「未解決事件」という番組のネタとして行方不明の俳優を追い、その男の謎を探ることはミステリー要素がもちろんあるのだが、自分の印象はそうではなく、フィルム時代のカメラと現場のデジタル撮影、スマホ等の機器、そういった時代の流れと、それについていけない者たちの存在、そして、過去を失った男と、過去を捨てた男、その二人の離れていた線が再び重なる瞬間、もしかしたら刹那かもしれない記憶の交差を描いていたと感じている。
何よりもこの作品には、映画の難しさ、怖さ、素晴らしさが、詰め込まれている。
結末は描かれない。
少女の扇子越しの強い眼差しと涙。少女は父と再開した。それで十分だ。
その男は瞳をとじた。
あっという間の169 分。
もしかすると、ほんとに眠っていたのかもしれない。
瞳をとじて…。