モモモ

落下の解剖学のモモモのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
4.3
この手の「長尺だからこそ」な傑作は大好物ですね。
法廷サスペンスとしての面白さは勿論の事、「子供から見た両親」と言う物語の視点に心打たれた。
転落死した父、殺人(不審死)の嫌疑をかけられた母の裁判を通して知りたくなかった、知る必要がなかった現実が浮き彫りになる事で「絶対的な存在」であった「親」が一人の「不完全な人間」達である事を知り、受け入れ、何を信じるかを選択する成長譚。
「あれ、やっぱり殺したのかな」と「いや、これは事故っぽいな」を反復横跳びし続ける構成そのものが、そこに乗せられる観客(傍聴者達)を揶揄し続ける。
真実は決してわからないが(とは言っても本作を観た観客の多くはある側に傾くオチだと思うが)、わからないからと言って思考を放棄するのではなく、見えている範囲から自分で他者を想像するしかない。それが思い遣りであり、それが愛なのだろう。
「それはそれ」としか言えない母と父の人物造形がたまらなく、自分に、そして自分の両親の姿を重ねてしまった。
父がコンプレックスを抱えていたのは事実だし、医者にしか話さない本音があったのは事実だし、妻にしか話さない本音があったのも事実だ。
母が身勝手だったのも事実だし、歩み寄らなかったのも事実だが、彼女の思想と行動には一貫した筋が通っていたし、家族に対する愛情があったのは本当なのだ。
多面的で身勝手でグロテスク。親であろうとそれは変わらない。
誰かを裁く映画でも、救う映画でもない。
誰かを信じる、信じたいと願う映画だ。
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