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落下の解剖学のKOUSAKAのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
3.6
『ありがとう、トニ・エルドマン』が大好きなので、ザンドラ・ヒュラー出演作は出来るだけ見るようにしていますし、何といっても今作はカンヌのパルムドール受賞作ということで、かなり期待していました。

結論としては、ちょっと期待しすぎたのかもしれませんが、個人的にはそこまでハマりませんでした😔もちろんクオリティは十分高いですけど。

まず、ここまで法廷劇としての要素が大部分を占めていると思っていなかったというのが大きいかもしれません。見ているこちら側からすれば、最初からサンドラが夫を殺したとはとても思えなかったので、あの長い法廷シーンでサンドラに疑惑の目を向けさせようとする演出が続くことが少し鈍重に感じてイライラしてしまったかも。

やっていないことを証明することの難しさ(悪魔の証明)や、物的証拠ではなく「状況証拠」だけで追い詰められていくこと、そしてさいあく潔白を証明できたとしても、そこに至るまでの段階でSNSやマスメディアを通じて社会的に制裁を受けてしまう理不尽さなど、現在の社会や司法の抱える問題点を、非常に生臭くリアルな人間ドラマの中で描き切ったジュスティーヌ・トリエ監督の手腕は凄いと思いました。

前半に「私は夫を殺していない」というサンドラに対して、弁護士のスワンが、そんなことはどうでも良いと言わんばかりに「それは問題じゃない、周りの人たちがどう思うかが問題なんだ」というようなセリフがありましたが、このやり取りがこの映画の本質を捉えているように感じました。

法廷の場で、子供なら耳をふさぎたくなるようなシビアな話を聞かされ続けたダニエルくんが一番頑張ったと思います👏彼の成長物語でもありますね。

あとサンドラも、欠点もあるし、人から批判されても仕方ないような行いもやっていたりして、決して清廉潔白な人ではないように描かれているところがフランス映画らしくて良かったと思います。
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