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伯爵のmiumiuのレビュー・感想・評価

伯爵(2023年製作の映画)
3.9
オスカーで撮影賞にノミネートされたことで知ったNetflixオリジナルのチリ映画。

チリ独裁政権の中心人物アウグスト・ピノチェトが主人公。
永遠の命を持つ吸血鬼でありながら人生に嫌気がさしたピノチェトは、生き血を飲むのをやめて死を選ぼうとするが… な、ダークホラーコメディ。

チリの政治については「かつて独裁政権だったはずだよなあ」ぐらいの薄い知識しかないまま鑑賞。
まさにその軍事独裁政権の独裁者だったのがアウグスト・ピノチェトだと鑑賞後に知った。
実在の人物を瀕死の吸血鬼に仕立てているあたり、かなり風刺の利いたコメディだと思うんだけど、政治の知識が足りなくて回収しきれなかったのが残念だ…
それでもホラーコメディとして、充分楽しめた。

残虐描写も血みどろシーンもありつつ、モノクロ作品=血の色は見えないのでそこまでグロく感じないのが不思議。
吸血鬼が空をふわっとぬるっと舞うシーンが面白くかつ美しくて、ホラーというよりはダークファンタジー寄りの雰囲気かな。

人物も展開もクセだらけで面白かった!
死にたがりの吸血鬼、彼の財産を何とか相続しようとするが隠し場所が分からず四苦八苦する子供たち、夫に噛んでもらえず吸血鬼になれない妻の葛藤、ピノチェトの財産を探るために雇われた会計士…と思いきや、実は邪悪な存在を祓うのが目的のシスターとの攻防などなど。
インパクトの強い人物は他にも登場するけれど、ネタバレになるので記載は自粛。

確かにB級風味ではあるけれど、生き血を吸って生きながらえるピノチェトの姿や、「殺人を咎められるのは気にしない、でも泥棒扱いされるのは嫌」という勝手なピノチェトの言い分は、そのまま独善的な軍事政権とも重なって見える。
きちんとエンタメホラーコメディとして成立しているのに観る度に発見がありそうで、もう一度観たくなる作品だった。
この作品、ヴェネツィア国際映画祭では脚本賞を受賞しているのか… ハチャメチャなのに深さも感じるあたり、妙に納得。
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