田島史也

枯れ葉の田島史也のレビュー・感想・評価

枯れ葉(2023年製作の映画)
3.6
ステレオタイプな恋愛観を持つ、旬の過ぎた男女の、不器用でどこか愛おしい、秋風漂うラブストーリー。


喜劇でも悲劇でもない、なんでもない恋模様が、今日も世界のどこかで繰り広げられている。ラジオから流れる現在進行形のロシア・ウクライナ戦争のニュースは、我々と時を同じくして巻き起こる事実を伝える。

無産階級の、キラキラとした恋愛からは遠い男女の一挙手一投足。哀愁を感じさせる2人のやり取りが、暗鬱とした空気を鮮やかに彩る。歳をとっても恋愛ができるのだ、と背中を押してくれる感じ。ほのかに温かい恋愛模様が心地よい。私自身も歳をとってから、また観たい。

カウリスマキの故郷、フィンランドの原色の映える色彩感覚は健在。恐らく35mmで捉えられた、失われつつある映画的な色味の中に、カウリスマキのカラーが印象的に散りばめられる。

カウリスマキ、ほんとにドS。緩やかに遠回りしながら、障壁を超えて結ばれる2人。それにしても障壁が多いし、あのタイミングで事故るなんて(笑)しかも、事故の様子は隠蔽される。驚愕のシーンも、彼の手にかかると、ささやかなワンシーンとなる。鮮やかな手さばきによって、ジリジリと2人を痛めつける。

ユーモアが良い。「妹です、宗教上の」。財布に入れて、ポケットのジップを閉めるところ。軽やかでいいね。沈潜した空気を一気に軽くしてくれる。

引退を撤回してまで作り上げただけに、熟成された様々な手法による、カウリスマキの極地を魅せてくれた。


映像0.8,音声0.9,ストーリー0.7,俳優0.8,その他0.4
田島史也

田島史也