田島史也

パスト ライブス/再会の田島史也のレビュー・感想・評価

パスト ライブス/再会(2023年製作の映画)
3.6
言語は国境を超えるが、移住はできない。しかし、過去と決別しなければならない。本作は3人の心の葛藤を鮮明に描いた作品である。

幼馴染のふたりの恋物語ではあるが、そう単純では無い。アーサーがオムファタールのように思われるが、実際は誰も悪役では無い。

出会い、別れるという人間社会の摂理を、韓国とアメリカという物理的距離によって描いた。今作においてヘソンとナヨンは幼馴染で特別な関係だっただけに、その別れにかなりの時間と覚悟が必要だったのである。

そしてそんな切っても切れないような関係を、イニョンとして説明していった。
巧妙だったのは、ヘソンが追い求める存在をナヨンとし、2人が別れて以降はノラとし、その距離と葛藤を描いた点である。ノラは、あの頃の憧れに囚われる自分と、アーサーと共に新たな人生を歩む自分の間で葛藤する。この葛藤が繊細に描かれたからこそ、ラストシーンが特別なものとなった。

ラストの別れで、ヘソンは来世で会おうと言い、過去の憧れ、未練との決別を宣言した。そしてノラは泣き崩れる。
最後は、少女ナヨンの失恋だったのである。

突然別れてしまった12才の幼馴染2人が、24年後に再会し、24年前の恋愛を終わらせる。

こんな壮大で切ない失恋は初めて見たかもしれない。誰も悪くは無い。当然のように社会に横たわる現実を、まざまざと見せつけられた気分である。

音楽が邪魔しているシーンがあったのと、カメラの存在を感じてしまったシーンがあったのと、12年前のノラが24歳にどうしても見えないのは気になった。


映像0.8,音声0.7,ストーリー0.9,俳優0.7,その他0.5
田島史也

田島史也