オレオレ

ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディのオレオレのレビュー・感想・評価

4.5
疑似家族の心温まる話、といえばそれまでなんだが、時代設定、テンポ、気の利いたセリフ、そして何より3人の演技で印象的な作品なんだよなあ。
さすが名匠、アレクサンダー・ペイン。大コケマット・デイモンの「ダウンサイズ」は追及しないことにしよう。

ピノ・ノワールの価格を爆上げ(そしてメルローを爆下げ)した名作「サイドウェイ」のコンビ、A.ペインとポール・ジアマッティが再び。
時代は1970年で、ベトナム戦争の影響が映画の中にも。
「サイドウェイ」の意固地マイルスがそのまま年を取ったような、いや、もっと嫌味度を加えたような高校教師、ハナムをジアマッティが演じ、スマートアスだがまだまだ繊細な高校生アンガスを新人のドミニク・セッサで。このアンガスがいわゆる色男じゃないのがいい。シャラメやらジェイコブ・エロルディがきてたらかなり萎えてただろうな。

全寮制の有名男子校のクリスマス休暇が舞台。
12月の20日ごろから学校は2週間ほど休みになり、寮生は皆、家族のもとに帰ってホリデーを過ごす。教員も同様。
日本だと、夏休みでも事務職なんかは出勤しているだろうし、まるっと閉鎖、冷暖房も限られたエリアにしか残さないというようなレベルはちょっと想像しにくいかも。
レストランとホテルを予約して恋人と過ごすのが黄金というクリスマスの日本、「休暇に家族のもとに帰らない」ということの特異性からくるアンガスの焦りや韓国人少年の涙はピンとくるだろうか。

学校に残り、こういう「休暇取り残され組」の面倒を見る仕事を押し付けられたハナム、休暇中でも学業やエクササイズといったプログラムを生徒に課す嫌な野郎。
ところが、なんだかんだで生徒はアンガス一人になってしまい、チーフ料理長のメリーと3人で2週間を過ごす羽目に・・・
アンガスの暴走やボストンへの「修学旅行」、同僚に招かれたクリスマスパーティなどで距離が少しずつ縮まるアンガスとハナムだが、そのハナムの信頼を裏切るような行為にアンガスが出る。
その理由と後に続く結末・・・ラスト30分の意外な展開は陳腐な言い方だが、胸がつまる。「entre nous」ですよ、entre nous!

このentre nousの他にも、印象深いセリフやにやっとさせる言い回しも多くて楽しめた。
ハナムの受動攻撃性やアンガスのスマートアスな切り返しもニヤニヤしてしまう。
Friends are overrated, Barton Man!そして何より、Candy Cane!
しかし、これを真夏の6月に見たって、雰囲気半減だろうなあ・・・

P.ジアマッティ自身がこういう全寮制の学校に行っていたらしく、思い当たるシチュエーションや似たような教師もいたようで楽しかった、とインタビューで語っていた。
こうやって3年だか4年、寝食を共にしたとなればいろんな繋がりや絆ができるだろうが、合わなけりゃ地獄だなあ・・・。
とりあえず、男子校だから寮が臭そう!