このレビューはネタバレを含みます
残酷な描写を一切見せず、ここまで観客を悍ましい気持ちにさせることができるのか…
冒頭の演出には度肝抜かれた。
インパクトあるタイトル"Zone of the Interest"の文字がゆっくり時間をかけて黒い背景に溶け込んでいく。
やがて画面は真っ暗に。これが3分…いや体感5分ぐらいに感じたかな。
これが表しているのは「人の関心が薄れていく様」と「慣れること」だろうか。
最初のインパクトこそあれど、真っ暗な画面に徐々に関心が削がれ、「慣れてしまう」自分を感じた。
この映画の何が恐ろしいって、どうしたってあのヘス一家に自分を重ねてしまうこと。
まさに監督の思惑通りになった。
あの一家を「異常だ」と突き放すこと、特に我々日本人にとっては「遠い異国の地での話だ」と切り離して考えることは簡単だけど、果たして彼らと自分に大きな違いはあるのだろうか…
家族の幸せな日常の裏に嫌でも目に入ってくる忌々しい収容棟、忌々しい壁。
時折立ち上る黒煙に銃声音、片道切符の列車の到着音、怒鳴り声に叫び声、、、
淡々と日常が描かれる中で、確かな違和感が潜んでいた。
特に毛皮のコートを試着する妻の醸し出す恐ろしい雰囲気よ。。ザンドラ・ヒュラーやばすぎ。
所長のルドルフに転属の話が出たときに、妻が「ここに残る」「ここで理想の生活を続ける」と言ったのは衝撃だった。。
塀の向こうでは毎日惨劇が起きているというのに、ここで理想の生活が叶えられるのか。
あと気になるのが子供たちはどこまで気付いていたのだろうということ。
『縞模様のパジャマの少年』のブルーノと立場は似ているが…
個人的にはお兄ちゃん?が弟をビニールハウスに閉じ込めるシーンが印象に残った。。
終盤の現代の映像に切り替わる演出にもびっくり。
写真が並ぶ廊下とか、様々な展示品が瞬時に蘇り、"あ、ここは現代のアウシュヴィッツだ"ってすぐに気付いた。
もっと書きたいことはあるけどこの辺で。
所長のルドルフ、どこかで見た顔だなとおもったら『ヒトラー暗殺、13分の誤算』主人公の家具職人だ!