最初に予告編を見たときの印象は漫画の『Cat Shit One』に『ハッピーツリーフレンズ』みたいな悪趣味なグロ要素を混ぜたような感じかなぁというもので、それは全然間違いではないというか概ねそういう映画ではあったのだが最後の数分で想像の斜め上を行っちゃう感じの映画でしたね。あのラストはちょっと驚いたな。そういう意味では割と楽しめたところもあるのだが、でも何かちぐはぐ感を感じて惜しいなぁという気にもなってしまう『ユニコーン・ウォーズ』でした。
公式の宣伝文句にも『地獄の黙示録』×『バンビ』×『聖書』とあるが、大体の印象としてはそういう映画ではありました。とは言っても『地獄の黙示録』はベトナム戦争風の森の中でのエグイ戦いで『バンビ』はキャラクターデザインがかわいらしい動物風になっているというだけでどちらも映画のガワだけの部分であり、核心部分は大体悪趣味なビジュアルで語り直す『聖書』って感じだったんですけど。
お話は何かテディベア族とユニコーン族がいて、かつてテディベア族が住んでいた聖なる森をユニコーン族が奪ったとか何かで両種族は争っているという人類の中でもよくある感じの設定なのだが、主人公はテディベア族の双子の兄弟で兄は心優しく温厚な性格で兵士には向かないが弟は上昇志向が強く周囲から愛されてる兄を憎んでるという設定。その兄弟が兵士として対ユニコーン戦争の前線に出て、新兵の二人は無慈悲な戦場の洗礼を受ける…という感じのお話ですね。
正にベトナムものの映画でよくあった感じのお話しである。そういう戦争のエグさをファンシーな絵柄でパロりながら皮肉なギャグとして展開していく…というのが大まかな映画の内容だが、その辺のノリは個人的な好き嫌いはあろうが中々突き抜けていて面白かったですね。身も蓋もない言い方する朝目新聞みたいな勢いだけのパロディって感じで俺自身の趣味としてはそういう作りは安易な感じがしてあんまり好きじゃないのだが、首吊りとかウジ虫とかヘッドショットで脳みそが飛び散ったりする描写もきっちりとやっていたので安易な悪趣味ネタとはいえちゃんとやることやってるなぁという感じでその意気やよしというところはあった。
あとは悪趣味なグロとパロネタが本体といった映画ではあるものの、上記したように聖書ネタもふんだんに取り入れられていてそれはここ数年の人類の所業に対してかなりストレートな批評もあるので単なる悪趣味映画といっただけのものではない。ざっと本作の感想を見たところ、その辺に関してはジブリっぽいという意見が多くて確かにそれは俺も感じたのだが、個人的には本作の監督が知っていたかどうかはともかく宮崎駿のイメージの引用としては宮﨑自身が多大な影響を受けている諸星大二郎作品の雰囲気をかなり強く感じましたね。ネタバレしないように直接的なことは書かないが、特にクライマックスの展開はこれどう見ても諸星大二郎作品でしょっていう結末と演出であった。
なんかね、単なるテディベア族とユニコーン族の戦争だけじゃなくて途中からクトゥルフ神話めいた異形の神を信仰する猿の集団も出てきてそれらの勢力は遥か昔から森の覇権を賭けて殺し合っていたというような世界観を提示されるのだが、それは本当にただそういう裏設定があるんですよっていうのをチラ見せされるだけで映画自体は凄く急速に物語を畳んで終わっちゃうんですよ。それこそ諸星大二郎がよくやるような、登場人物たちは色々頑張ったけど大いなる世界の意志に飲み込まれて神話的な戦いは次の舞台に持ち越しになりました、みたいな終わり方なんですよね。
いつもハリウッドの超大作に対しては「長尺はやめてせめて120分に収まるくらいにしろよ」と言ってる俺ですが、ランタイム92分の本作に対しては「あと20~30分くらい追加してその世界観をちゃんと語れよ!」と思ってしまいましたね。いや、これはちょっと尺の配分間違えてるんじゃなかろうか。現実をパロった戦争ものかと思ってたら壮大な神話的ファンタジーになってマジかよとなってしまったよ。
いやモロに聖書要素があるのは分かるのだが…。という感じでお世辞にも出来がいい映画って感じではないけど個性的で面白い作品ではありましたよ。後半のインパクトが凄かったのでこれに尽きるが、急に諸星大二郎の世界になるんじゃない! という感じでした。