回想シーンでご飯3杯いける

愛にイナズマの回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

愛にイナズマ(2023年製作の映画)
4.3
監督デビューを控える花⼦(松岡茉優)が持ち込んだ企画に、プロデューサーから返ってきた「理由は?」という質問、街で見かけた社会現象の話に対しては「そんな人いるわけない」。実話映画や共感映画ばかりが注目される映画業界を強烈に風刺する冒頭のシーンが秀逸だ。

既に実際に起きた事だけではなく、現実には有り得ない、もしくは有ったとしても、なかなか拾い上げられない声や気持ちを映像にしていくのが、映画の役割りであり、可能性ではなかったか? 奇しくも完全オリジナル脚本の本作「愛にイナズマ」と、実話ベースの「月」を、ほぼ同じタイミングで公開する事になった石井裕也監督が発するからこそ、このメッセージには強い説得力が生まれる。

作品の中で花子は監督をクビになり、仲間を失い、その復讐として故郷の家族の前で自らカメラを回し始める。帰郷物で映画製作物という、映画マニアの間で人気のスタイㇽを取り入れている物の、日本を代表するキャストが演じる登場人物は、共感から一歩も二歩もずれるクセの強い人ばかり。彼らが生み出すドラマは、観客を驚かせ、爆笑を生み、それがやがて感動に繋がっていく。

国民から「役に立たない」と批判されたアベノマスクを、2023年の映画で小道具としてこれほど大活躍させてしまう監督の手腕にも脱帽だ。その小さなマスクでは隠し切れない感情と鮮血が目に焼き付く。