Jun潤

劇場版 優しいスピッツ a secret session in ObihiroのJun潤のレビュー・感想・評価

5.0
2023.06.15

松居大悟監督×スピッツ。
北海道帯広市にある国の重要文化財、旧双葉幼稚園園舎にて収録され、2022年1月にWOWOWで放送・配信されたライブに、メイキング映像とアフタートークを加えて劇場公開。

広瀬すず主演、NHK「連続テレビ小説」第100作記念ドラマ『なつぞら』の舞台でもある十勝地方。
『優しいあの子』が主題歌となり、制作の際にインスパイアを受けた地でのスピッツのライブは、コロナ禍によって中止になってしまった。
バンドの念願でもあった聖地での演奏を、スピッツはついに果たす。

まず中身としてはスピッツが曲を演奏していくもの。
しかし観客や、今回の場合視聴者に向けたライブでもなく、バンドミュージックが出来上がっていく過程を追ったドキュメンタリーでもない。
アフタートークで松居監督が仰っていた通り、スピッツというキャストがカメラの前で、演奏という演技をしていた映画だったという印象が強いです。
それこそミュージックビデオのような感じなのですが、これもアフタートークで言われていた通り、スタジオでのレコーディングを覗き込んでいるような感じもありました。
なおかつ、撮影した映像をそのまま使うだけではなく、画面の比率や照明の加減、色彩などを変えることで、ライブの背景映像のような、音楽以外の要素でエモさを演出してきた場面もありました。

演奏が行われた場所も、100年の歴史を持つ幼稚園の遊戯室という、スピッツだけでなくバンドにとってなかなか演奏する機会が無い場所。
そこで確かに刻まれた歴史があって、八角形の室内という特別感あふれる空間。
そんな場所での演奏という非日常感に加え、メンバー全員で円を描いている様から普段のスタジオの様子が垣間見えたような気がします。
ライブのMCにあたるメンバー同士のトークや、あえて映り込んだという音響スタッフや撮影スタッフの感じも、飾り気の無いありのままのメンバーの姿を見れて、バンドへの思い入れがそこまで強くなくても、親近感が湧いてきましたね。

演奏された楽曲については、曲名とサウンドが一致したのは二曲だけ、聞けば分かった曲でもあともう一曲あるくらいで、他の12曲は初めて聞く曲ばかりでした。
セトリに関しては、アフタートークによればライブ会場で観客と共に盛り上がることよりも、放送・配信の視聴者、映画の鑑賞者にサウンドを届けることに重きを置いた曲をチョイスしたとのこと。
加えて、草野さんの歌声やベテランの貫禄溢れる高度な演奏でもって、まるで何回も聞いたことのあるかのような安心感、ずっとスピッツと共に生きてきたかのように心に浸透してくる感じがありました。

今作の大部分は既にWOWOWにて放送・配信されたものではあるのですが、劇場公開にあたり追加されたアフタートークがとても刺激的でした。
クリエイター同士が互いの作品について意見を言い合い、褒め合う。
映画でいえば制作期間中に意見をぶつけ合うことはよくあることなのかもしれませんが、完成品に対してトークするというのは、なかなか無いのではないでしょうか。
プロモーションの一環として観客や取材陣に向けて、というのはあるかもしれませんが、メンバーと監督だけの空間で、映画鑑賞者全員が見れるというのはあまり聞かないですし、違う分野のクリエイターに対してこんな言葉を紡ぐのかと、才能と創造性のぶつかり合いが今作の見どころの一つだったと思います。
Jun潤

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