kabcat

瞳をとじてのkabcatのレビュー・感想・評価

瞳をとじて(2023年製作の映画)
4.7
ビクトル・エリセ監督の新作が観られる、それだけで奇跡的なことなのに、冒頭の古ぼけた色合いの家の全景のショットが現れただけで、いろいろな思いがこみ上げてきて泣きそうになった。それからは何気なく見えて美しいショットの連続で、監督らしい映像の作り方は変わっておらず、また内容も古びた感じもせず現代劇としてきちんと成立しているところに、31年のブランクを感じることは全くなかった。

元映画監督が、自作に主演した俳優が突然失踪した事件を追いつつ、自分の映画人生をふりかえる、という設定は、エリセ監督自身の映画人生をふりかえる内容にも見える。その証拠に、たとえばフリオの暮らす家を撮った夜のシーンが『マルメロの陽光』の夜のシーンを、またシスターたちとの会食が『ミツバチのささやき』の家族での朝食シーンを思い出させるように、映画のさまざまなシーンが監督のこれまでの作品の1シーンに通じているのだ。

そのクライマックスともいえるのが、アナ・トレントが "Soy Ana."と語りかける場面であり、そのセリフを聞いただけで胸がいっぱいになる。3時間という大作でゆったりした展開だが、フリオが登場するあたりから静かに緊張感が増していき退屈することはない。絶妙な結末にも至福を感じました。

フリオ役のホセ・コロナドの重厚な存在感を中心として、まわりのキャストのバランスがよい。アナ・トレントの存在はもちろんうれしく、そのほかロラやベレン役など女性キャストがみないい感じの女優さんたちだった。映画フィルムを保管するマックスは一瞬スピルバーグ監督に見えました笑。そして監督の作品には欠かせない人懐こい犬の存在も印象的です。
kabcat

kabcat