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亀も空を飛ぶのCisaraghiのレビュー・感想・評価

亀も空を飛ぶ(2004年製作の映画)
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昨夜BS放送大学の番組でクルド人について高橋和夫先生が講義しているのを見た。そして、今日の夜には偶然NHKで在日クルド人についての特集がある、というタイミングで今朝見た映画がたまたま、アメリカ軍が侵攻する直前のイラクのクルド人難民キャンプを描いたこの映画だった。放送大学の番組を見る前までは漠然と断片的にしか知らなかったクルド人が、俄に意識に上ることになった。

クルド人は、トルコ・シリア・イラン・イラク・アゼルバイジャン・アルメニアにまたがる、イラク一国の面積にも匹敵するほどのかなり広いまとまった山がちな地域に主として暮らしている。人口は3000万人以上、シリア、ヨルダン、イスラエルをはるかに凌ぎ、国を持たない民族としては世界最大と考えられているそうだ。独自の伝統・文化、アイディンティティを強く持ち、これだけの面積と人口規模を有するのに、何故ここにクルディスタンという国が存在しないのだろうと不可思議だが、第一次世界大戦でオスマントルコ帝国が敗れ、フランス・イギリス・ロシアによって恣意的な国境線が引かれたことから現状に至るようだ。

映画に登場するイラクの難民キャンプの人たちは何から逃れてここにいるのか、少女と兄が逃げてきたといういわくありげなハラブジャとは何なのか等、クルド人を巡る状況は複数の国が絡むので複雑極まりなく、少し調べたくらいではわかりそうにないが、ハラブジャとはイラクとイラクの国境、イラクのクルディスタン地域にある町のことで、イラン・イラク戦争の末期1988年、イラン側に協力したとして、サッダーム・フセイン政権が化学兵器を使用して住民の殺害を図ったとされる事件が起きている。彼女たちは、その町から来たということらしい。

このような困難な場所で究極の危険と隣り合わせで生きている子供たちにも、子供の黄金時代はあると言えるのではないか、と思えるのがこの映画の救いである一方で、最も残酷な形でその黄金時代を奪われた子供がいる現実を描く。監督はイランのクルド人だそうだ。マジックリアリズムが話を物語へと引き上げる役割を担っていて、脚本もよかった。
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