びんぼん

哀れなるものたちのびんぼんのネタバレレビュー・内容・結末

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

素晴らしい美術と音楽のアーティスティックな世界観の中で、狂気に満ちた、しかしながら非常にわかりやすい物語が紡がれる

そんな傑作がこちら


エログロ過多と耳にし、受け付けない種類だったら困るなと思いつつも
大好きなエマ・ストーンの代表作になるかもしれないと映画館に足を運んだ
念の為ひとりで
鑑賞後誰かと気まずくなるのは嫌だ

『ミッドサマー』の面白さを全く解することが出来なかった私、恐る恐る観始めたのだけど
最初から最後まで、あらゆるシーンが「すごい」映画だった
面白いという単純な言葉では言い表せないが、退屈するところは一切無く、全編を通して不快感も無かった
なんとも言えない神経を逆撫でするような音楽が終始奏でられているにも関わらず

不快感が無いのは、リスボンやロンドンなど現実世界の都市が舞台となっているけど、そこはかとなくファンタジーなどこか現実離れした場所が舞台となっているからなのかも

そしてベラの魅力
無垢で欲望に忠実な産まれたばかりの大人の女性という、矛盾を孕んだ存在
飛び出した冒険の旅路で、急激に吸収するのは知識と経験
パリの娼婦に身をやつしても、全てが学びとなるベラ
パリの娼館って安野モヨコの『鼻下長紳士回顧録』を思い出しちゃうけど、変態の巣窟というイメージはやはり間違ってはいなかったようだ


女性の覚醒、冒険を通じての成長、それも目を見張るほどの成長
知性と自由

エマ・ストーンと並んで大好きな女優マーゴット・ロビーが主演を務めた『バービー』が思い出される
同じようなテーマを全く違う切り口で描いた作品が『哀れなるものたち』と『バービー』だ

どちらも好きだけど、より心のツボにハマったのは『哀れなるものたち』の方

ベラを取り巻く人物も、ドSの元夫(父とも言える)以外は魅力的な人々

マッドサイエンティストな育ての父ゴッド
ウィレム・デフォーってこんな役やらせたら天才やね
ま、他の役の時も天才やけど

ゴッドの助手マックス
可哀想な凡人かと思えば、最後まで筋が通っていて、なかなかやりおる
ベラを深く愛しているのが分かる

ベラを外の世界に連れ出す色男ダンカン
色々教えてやろうという百戦錬磨の男も、ベラに振り回され、あげく縋り付くような情けない男に成り下がる
その情けなさにマーク・ラファロの可愛げが上手くブレンドされ憎めないキャラだった

医者を目指す道を選び、改めてマックスとの結婚を決めたベラ
このまま呆気なく大団円なの?
というところで、ドS夫のアルフィーが登場する
このとんでもないドS束縛夫、確かに身ごもっていたベラの母(ベラの肉体)が絶望のあまり命を絶ったのも致し方ないと思うレベル

アルフィーとヴィクトリア(ベラの母である肉体の生前の名前)の夫婦がどんな生活を送っていたのか、その悲惨さは想像にかたくない
ゴッドから受け継いだマッドサイエンティストの才能(?)を生かし、ラストはグロテスクながらも溜飲が下がるようなカタルシスに包まれる
爽快感すらある


ヤギの脳を持ったヒトが誕生したわけだけど
ヒトの脳を持ったヤギが生まれるのかと想像し、ドキドキしていたのは私
予想が外れて、ちょっとホッとした

だってヤギとして生きる(体は人間の)アルフィーの方がマシよね?
ヤギの姿で人間の思考というのは地獄絵図だわ



グウェンのエマも、クルエラのエマも大好きだけど、ベラのエマで文字通り体当たりの演技に開眼したようだ
たどたどしい歩き方など身のこなしも、どんどん知性を得て変わってゆく話し方も素晴らしかった
賞レースに名を連ねてるのも納得
暫くはこの作品の余韻から抜け出せそうにない

追記
ひとつ思い出した映画がある
『ブライド』
スティングとジェニファー・ビールス
びんぼん

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