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哀れなるものたちのkabcatのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.2
奇想天外な設定や過激な性描写の話題が先行して、どうしてもヘンテコ映画のイメージがするけれども、この監督はもともと非常にまっとうな物語を不器用に描くひとであり、今回も根本は変わっていないと思う。

それは幼児の脳を持ったベラが、快・不快の認識→性的好奇心の目覚め→快楽の追求→知的好奇心の目覚め→知識の追求→社会性の目覚めと成長していく過程に端的に表れている。ベラは自由奔放な考えの持ち主に見えるが、一方で憎しみや殺人を嫌う非常にまともなモラルを身につけており、それが観る側に共感を抱かせる。この監督がハリウッドでここまで受け入れられているのは驚きなのだが、このベースのモラリティがその一因なのかもしれない。

そういうわけで物語にそれほど新しさを感じなかったのだが、この映画で味わうべきは圧倒的な美術と音楽だと思う。ゴッドウィンの家やリスボンの町、パリの娼館などの想像力にあふれた表現を観ているだけで楽しかった。また要所要所で鳴り響く不穏な音が画面を盛り立てており、非常に効果的だった。

エマ・ストーンは『ラ・ラ・ランド』のイメージを完全に払拭する演技で、おそらくオスカーを獲るだろう。彼女もすごいのだが、まわりがまたクセの強いキャスト揃いで、ウィレム・デフォーや娼館の女主人役のキャスリン・ハンターの怪演も印象的だ。これまで物静かに女を惑わせる笑イメージのあったマーク・ラファロがそれを逆手に取ったような役柄を力演しており、それも面白かった。
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