fujisan

春画先生のfujisanのレビュー・感想・評価

春画先生(2023年製作の映画)
3.7
『繊細にして大胆、
 猥褻にして風雅
 これ、春画の魅力なり』

そんな言葉から始まるこの映画。名前が示すように、『春画』にまつわる映画です。

■ 春画について
春画とは、いわゆる『男女がまぐわっている絵画』で、有名なのは、葛飾北斎による『蛸と海女』でしょうか。
Wikipedia:https://w.wiki/9XHR

江戸時代は『笑い絵』として禁制品でありながら庶民から大名まで、皆で笑いながら見る娯楽だったそう。明治時代にキリスト教をベースとする禁欲的な欧米の文化を導入したことで、2015年に大規模展覧会が行われるまでは、名前を出すこともタブーのような存在だったようです。
参考:https://www.tokyoartbeat.com/articles/-/shungaten_r18

拙い知識ですが、春画に限らず日本はもともと性についてはおおらかで解放的。『ケ(日常)とハレ(非日常)』の民俗文化のもと、夏祭りや村祭りの暗がりではそこらじゅうでまぐわっていたとも言われていますが、その文化を残すものの一つが春画であるということなのでしょう。

春画はそんな文化をベースとして需要が高く、葛飾北斎や歌川国芳などのレジェンド画家をはじめ、売れない画家たちが生活費を稼ぐために多くの作品を残しているようですが、単に『エロ』というものではなく、芸術性を追求するものでもあったようです。

映画でも、『性器に囚われてはいけない』という春画先生(内野聖陽)の言葉のもと、まぐわっている部分を隠して鑑賞するシーンがあるのですが、たしかに言われてみれば指先やちょっとした表情、視線の先などがとても繊細で、春画文化そのものについても学べる映画となっていました。

■ 映画について
鑑賞前は、”内野聖陽さんの映画”だと思っていて、確かに彼の色気ダダ漏れの映画ではあったのですが、一番印象に残ったのは、彼の弟子であり家政婦、弓子役の北香那さんで、少し乱暴かもしれませんが、エマ・ストーンが主演した「哀れなるものたち」と似たテイストがありました。

本作では、”一度男性で失敗した過去を持つ” ぐらいしか彼女の過去は描かれないのですが、そんな彼女が春画先生との関わりを通じて自らを解放し、あらたな自分を発見していくという映画になっていて、「哀れなるものたち」でエマ・ストーンが心配になったように、北香那さんが心配になるほどの体当たりの演技でした。

また、もう一つ似ているなと感じた映画が、パク・チャヌク監督の「お嬢さん」

下女、家政婦として未知の世界に飛び込むところや、性を含めて新たな自分を発見していくところ、主演のキム・テリさんと北香那さんの雰囲気が似ているところや、「お嬢さん」のヴィラン役が春画コレクターであったところなど、作品自体が変態チックな作品であったところ含め、似ているところが多かったです。


■ その他
□ 地震と鳥
劇中で何度か地震で揺れるシーン(深刻ではない)がありますが、これは主人公弓子の心が揺れていることを表してそう。地震の揺れが収まった後に、彼女は大きな決断をしているように感じました。

もう一つは鳥。こちらも何度か映像に登場し、こちらは主人公弓子を導く役割なのかなと思いました。

□ 柄本佑さん
監督から『いいかげんな色男』との指示があったそうで、まさしくそんな感じでした。。水色のブーメラン&Tバックが気持ち悪かったです。その他色々気持ち悪かったです(以上)

(インタビューを見たのですが、撮影現場でセックスシーンやヌードシーンを専門とする『インティマシーコーディネーター』がちゃんと入っていたとのことで安心)


■ 最後に
個人的にホラー全般が苦手な上に、不治の病ものや、大事な人が一時的に蘇るとか、そういう”泣かせ”系の邦画が苦手で、逆にそれ以外の邦画って本当に少ない気がしているので、こういった単純で笑えるオリジナル脚本の映画はとてもありがたく、とても楽しめた映画でした。

本作は昨年劇場で観たかった映画だったのですが、今回偶然にスクリーンで観ることができました。ただ、配信でも楽しめる作品だと思います!
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